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広島五輪の行方 基本計画案 <下> 対極の反応

■広島五輪取材班

市民の賛同見通せず 市長選の争点浮上も

 「核兵器廃絶の世界的な潮流を推し進めるために、国内外の複数都市の賛同と協力を得て、被爆後75年を迎える平和都市広島で開催することは、世界史的な意義がある」

 広島市は、開催基本計画案で広島五輪の意義をこう刻む。被爆後75年の2020年は、市が掲げる核兵器廃絶の目標年だ。秋葉忠利市長は「核兵器廃絶を実現した世界の記念イベントは、五輪以外にない」と繰り返す。

 シンガポール外相、フランス、イスラエル、エジプト、チュニジアの各駐日大使…。計画案には海外からの賛同コメントが並ぶ。

 被爆者や研究者の反応は複雑である。広島県被団協の坪井直理事長は「平和五輪の理念に賛同だ」と話しながらも「市民の熱い思いが噴き出なければ意義は薄れる」と懸念する。

ヒロシマの理念

 基本計画案では、「ヒロシマ五輪」の理念に賛同した国内外からの1千億円近い寄付金を見込む。全面的に賛同する広島修道大名誉教授の岡本三夫氏(平和学)は「近代五輪の理念は平和。ヒロシマの理念と百パーセント合致する。1千億円の寄付集めもヒロシマならできる」と訴える。

 これに対し、被爆者で、広島大名誉教授の葉佐井博巳氏(原子核物理学)は「五輪を実現するために、核兵器廃絶の取り組みを利用しようとしている。巨額な寄付は、どだい無理な話。それを言い出す市長は、公人の言葉の重みを分かっていない」と批判する。

 広島市立大広島平和研究所の田中利幸教授(戦争史)は、ナチスドイツが開いたベルリン五輪を挙げ「国威発揚の装置。平和とは対極だ」と強調。平和市長会議に加盟する国内外の都市に寄付の協力を求めている点に「核兵器廃絶を願い加盟してくれた都市を欺くことになる」と断じる。

 核兵器廃絶への潮流に乗り、世界的大イベントである五輪を目指すには国家レベルの支援も欠かせない。

 2月の衆院予算委員会で、当時の鳩山由紀夫首相に「応援」を要請した公明党の斉藤鉄夫政調会長(衆院比例中国)は力説する。「再び国会で取り上げたい。国が半分主体者になるぐらいの位置付けでいい」。ただ、与党民主党の三谷光男広島県連代表(広島5区)は「まずは市の動きを見守る。現段階では精神的に応援したい」と言葉を選ぶ。

「深い議論必要」

 市民の賛同が広がっていない、との懸念は経済界にも根強い。

 広島経済同友会の深山英樹筆頭代表幹事は「総事業費の膨張が続く開催方式を改めるという点で意義深い。一方で、収入計画の実現性の精査や市民、県民、議会との積極的な対話で深い議論をしてほしい」とコメント。9月29日の定例記者会見で、五輪への協力姿勢を問われた広島商工会議所の大田哲哉会頭は「市から一度も説明がないので答えようがない」と話した。

 招致検討が始まって1年がたつ広島五輪。秋葉市長は、議会や市民、関係団体、賛同自治体との議論を経て、国内立候補都市に名乗りを上げるかどうかを年内に最終判断する。

 一方で秋葉市長は、来年4月に3期目の任期を終える。117万市民が暮らす地方都市の命運を握る五輪への決断…。市長がアクセルを踏んだ場合、事実上の4選立候補表明との見方が広がり、来春に近づく市長選の最大の争点にも浮上する。

広島五輪構想の今後  広島市は3日、賛同自治体の首長で構成する招致検討委員会で、2020年夏季五輪の開催基本計画案を説明する。8日に市議会全員協議会で質疑を受けた後、市内全8区で市民向け説明会を開く。秋葉忠利市長は、年内に招致へ名乗りを上げるかどうかを判断する方針。日本オリンピック委員会(JOC)は2011年7月までに国内候補都市を決め、国際オリンピック委員会(IOC)に申請する予定。東京都の石原慎太郎知事が再挑戦に意欲をみせている。

(2010年10月2日朝刊掲載)

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【写真説明】懸垂幕などを使った大型映像装置のイメージ図。国内外の都市で臨場感あふれる観戦ができるよう基本計画案で提案している ★

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