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連載・特集

『生きて』 詩人 御庄博実さん <14> 劣化ウラン弾

■記者 伊藤一旦

イラクの惨状に震える

 2002年、広島市を訪れたイラクの医師2人と面会し、湾岸戦争で米国が使用した劣化ウラン弾の被害について聞いた

 「原爆を経験したうえ、被爆者の診療をしている医師に会いたい」という2人の希望でね。腹や首などに大きな腫瘍(しゅよう)ができたイラクの患者の写真を見せながら、劣化ウラン弾による被害について説明してくれました。

 僕は、中国新聞の連載記事などを通じて、劣化ウラン弾についてある程度知っているつもりでした。その被害は、劣化ウランが出す放射線と重金属汚染の重複したものではないかと考えていた。すると2人は「違います。放射線の違いだ」という。

 上空で爆発した原爆は、ガンマ線による被爆。イラクは、アルファ線による内部被曝(ひばく)だ、と。劣化ウラン弾は、戦車の装甲を貫通した際、摩擦熱で溶けて蒸気のようになる。それを吸い込むことで、微粒子の劣化ウランが体内に入り、被曝するわけです。僕もいろいろ勉強してきたつもりですが、単なる「放射線」の被害としか思っていなかったので、ショックでしたね。

 広島では被爆から20年後に増え始めた肺がんや乳がんが、イラクでは湾岸戦争の5年後から増え始めているという。「12歳の少女が乳がんになりました。見たことがありますか」と問われ、アルファ線による体内被曝の恐ろしさにぞっとしました。

 2003年3月、イラク戦争が開戦。そのちょうど1年後、合同詩集「ぼくは小さな灰になって…。」(西田書店)を刊行する

 2人は「米国のイラク攻撃を止められるのは、広島の被爆者の声しかない」と言いました。しかし、僕らは開戦を防げなかった。だから、ヒロシマの医師として、イラクの医師から学んだことを訴えるため、必死に詩を書きました。

 劣化ウラン弾の問題点を全国紙に投稿しようとしたこともあります。「これで掲載します」という連絡が来たのに、掲載されませんでした。米国への配慮でしょうか。あれは頭にきました。

 生物には、種を保つため、常に正常化しようとするメカニズムがあります。核兵器は、遺伝子などそんな正常化のメカニズムに対し、いろんな影響を及ぼすでしょう。米国は認めませんが、劣化ウラン弾は立派な核兵器だと思う。許せないですね。

(2010年8月13日朝刊掲載)

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