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『直言』 松井新広島市長 <上> 地方分権へ指導力を

■記者 藤村潤平

ローカル・マニフェスト推進ネットワーク中国代表 田嶋義介氏(68) 

 12年ぶりに広島市に新市長が誕生した。12日、初登庁した松井一実氏(58)。厚生労働省官僚からの転身だ。117万都市のリーダーはどうあるべきなのか。求められる役割や政治姿勢などを3人の識者に「直言」してもらう。

 ―松井新市長の公約をどう評価しますか。
 公約で具体的な数値が出てくるのは「待機児童ゼロ」ぐらいで、達成時期も明記していない。松井市長がいう「方向性を示し、議論してもらう」方法は、甲論乙駁(ばく)(議論がいろいろあり結論が出ないこと)に陥る懸念がある。

 全国的には、地元の青年会議所や市民団体が就任2年後にマニフェスト(公約集)の達成度を検証する機会が増えている。中国地方では2006年の倉敷市から始まった。市が資料やデータを提供し、公募に応じた市民が、達成度に点数を付ける方式。評価結果は市政に反映させる。世の中は評価の時代だ。

 ―新市長の政治姿勢をどうみていますか。
 報道や記者会見での発言、選挙中の公約集からは、地方分権に対するスタンスが見えない。東日本大震災により首都の危機管理の観点からも一層、地方分権の必要性が説かれている。それなのに分権に触れないし、大阪都や新潟州構想など県と政令指定都市の二重行政に関する発言がないのは寂しい。この20年間の日本の停滞は、中央政治や官僚にも責任がある。官僚の殻を破り、リーダーシップを発揮してほしい。

 ―新市長は「風通しの良い市政」を掲げて対話姿勢を重視しています。
 職員や議会との対話を優先し、内向きな印象だ。風通しの良さをいうにしても、まず市民が先ではないか。秋葉忠利前市長の市政運営について、報道各社の世論調査で評価が高かったのは、市議会との対立があっても、市民の視線を意識していたからだと思う。松井市長はその視点を大切にしてほしい。

 ―市長選で推薦を受けた自民党、公明党の勢力は議会で過半数を占めます。議会との健全な関係はどう築くべきですか。  
 執行部と議会がなれ合いだと、市民に受け取られないようにするには仕組みが必要。議員の圧力がかかりやすい予算編成過程の透明化が重要だ。財政課長、財政局長、市長の査定理由を公開してはどうか。鳥取県が先駆け、全国に広がっている。議員から職員への口利き防止措置などの手だても必要となる。

 ―被爆地の市長はどうあるべきですか。
 新市長は、オバマ米大統領と広島市長の立場は違うとして「自治体外交」による核兵器廃絶活動に消極的なスタンスを示したようだが、地方自治法は自治体が外交に取り組むことを制限していない。世界の安全・安心のために「ノーモア・ヒロシマ」を訴えるべきだ。それが被爆地の自治体の役割だ。

たじま・よしすけ
 朝日新聞社政治部次長などを経て、2000年に島根県立大教授、2010年に名誉教授。ローカル・マニフェスト推進ネットワーク中国の代表は2005年から務める。広島市長選を前に、広島青年会議所と共催で立候補予定者の公開討論会を開いた。光市在住。

松井市長の主な公約
 重点施策は、経済・雇用の振興▽行財政改革推進▽県・近隣市町との連携強化―など8項目。項目別に「世界に技術を誇れる地場産業の活性化」「市長退職金の削減」などを列挙した。数値目標はほとんど示していない。市長選の演説などでは、(1)五輪招致検討(2)子ども条例提案(3)折り鶴の長期保存・展示施設整備―の中止を明言。さらに行財政と入札制度は見直すとした。「二つの熟議」として、旧市民球場跡地利用計画と県営広島西飛行場のヘリポート化の再考も掲げた。

(2011年4月20日朝刊掲載)

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