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連載・特集

岐路の原発 揺れる中国電力 <上> 経営課題

■記者 漆原毅

島根3号機運転に全力 安全対策費 新たな重荷

 東京電力福島第1原発の事故の影響が、中国地方の原発計画にも及んでいる。逆風の中、推進を目指す中国電力の対応と、地元に広がる波紋をみる。

 「天と地がひっくり返ったようだ」。福島第1原発で起きた一連の事故に、中国電力のベテラン社員は驚きを隠さない。建屋の水素爆発に始まり、難航する原子炉の冷却、放射性物質の拡散…。「日本でこんな大事故はないと思い込んでいた」と首を振った。

 中電は2月1日、上関原発(山口県上関町)の建設プロジェクトを強化したばかり。山下隆社長がトップに就く異例の態勢で、海面埋め立て工事を1年3カ月ぶりに再開した。震災の発生はそのわずか18日後だった。

 強い姿勢を打ち出した直後だけに、衝撃は大きい。埋め立て工事は中断し、反対派の妨害行為を禁じるよう求めた仮処分申請も取り下げた。

 上関原発は計画浮上から29年。福島第1原発事故の国際評価尺度はチェルノブイリ原発と並ぶ「レベル7」とされ、計画のさらなる遅れは不可避の状況だ。

 だが、原発抜きに電力を安定供給する構想は描きにくい。中電の元役員は「今の状況で上関は進められない。喫緊の焦点は島根原発(松江市)2号機の継続と3号機の運転開始だろう」とみる。

安定供給の鍵

 島根2号機は中電の原発で唯一、運転中。3号機は来年3月の運転開始予定で、工事は9割方終えている。昨年の点検不備問題から停止している1号機は運転開始から37年。事故後、長期運転への不安の声も聞かれ、再開に向け地元了解には時間がかかりそうだ。

 3号機は出力137.3万キロワットと1、2号機の合計を上回る。3号機を稼働すれば、電力の安定供給、二酸化炭素(CO2)排出削減の面で大きく前進する。3号機の出力をCO2を出さない太陽光発電に置き換えると、12月に稼働する福山発電所が458カ所必要になる。

「原発は必要」

 3月末の会見。山下社長は事故を「大変深刻で重く受け止めている」としながらも、経済活動の維持や環境問題から「原子力発電は必要」と述べた。来年3月は困難だが、島根3号機の開始に全力を注ぐ方向でいる。

 一方で中電には、事故を受けて別の衝撃も広がり始めた。原発推進コストの上昇だ。島根原発の津波対策には今後2年間で200億~300億円を投じる。国の安全対策の見直し結果によっては、1号機の経年対策などで、さらに大幅な追加投資も想定される。

 事故を受けた東京電力の巨額の損害賠償を、電力会社が共同で負担する案も浮上。中電内部からは「国が原子力を必要とするなら、より国が責任を持つべきだ」との声も聞かれる。

 原発の維持、推進のため、企業としてどこまでコストを負担すべきかという課題も、事故は投げ掛けている。

(2011年4月21日朝刊掲載)

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