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岐路の原発 揺れる中国電力 <中> 共存の行方

■記者 樋口浩二、永里真弓

「安全神話」崩れ危機感 行政、新たな対策求める

 「福島第1原発の事故を踏まえ、国の新たな知見が出るまでは、何とも言えない」。島根県の溝口善兵衛知事は渋い表情を浮かべる。定期検査中の中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)1号機の運転再開は、知事の判断に委ねられた形となっているからだ。

スタンス一変

 1号機は、相次いで発覚した点検不備問題で2010年3月末で運転を停止。同11月から定期検査に入った。問題となった点検不備について、経済産業省原子力安全・保安院は今年2月、「安全に問題はない」と運転再開を認めた。これを受け、中電は5月以降の運転再開を目指していた。

 ところが、東日本大震災と福島第1原発事故の発生で、溝口知事のスタンスが一変する。県として判断する方針から、国が原発事故の原因を究明し、エネルギー政策の指針を示すまで凍結する姿勢に転じた。

 震災後の知事選(4月10日投開票)で再選を果たした溝口知事。選挙戦では、県民から島根原発に対する不安の声を聞いた。原発の「安全神話」が崩れ去った今、2期目のスタートを切ったばかりの溝口知事に重い課題が突き付けられた。

 周辺住民の不安は、島根原発から同心円状に広がる。福島第1原発事故では、半径30キロ圏内が屋内退避、20キロ圏内が警戒区域となった。島根原発から30キロ圏内にある6市2町は相次ぎ中電に安全・防災対策の強化を求めた。

 「市民の安全確保には、中電との協力関係が欠かせない」。島根原発から約30キロにある雲南市の速水雄一市長は強調する。米子市とともに3月、中電に情報公開や増設の事前了解を義務付ける安全協定の締結を求めた。

 出雲市は20日、原発事故を想定した防災計画を策定することを決めた。長岡秀人市長は「福島では想像以上の範囲に被害が拡大している。今までと全く違う発想の避難計画にしなければならない」と危機感を表す。

 島根原発のある鹿島自治会連合会(鹿島町)の井上穰会長(70)は「原発への信頼は崩れた。万が一の対応を真剣に考えなければならない」と慎重に言葉を選んだ。

 1号機の運転再開に加え、建設中の3号機は12年3月の営業運転開始を目標としている。さらに、2号機では14年度にも、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル導入を予定している。

37年間の恩恵

 1974年、1号機が運転を開始した。それから37年間、県と松江市は、島根原発の立地に伴う交付金や税収などの恩恵を享受してきた。中電と協力企業を合わせて計約1250人が島根原発で働き、地域への経済波及効果も大きい。

 溝口知事も「原発を止めることは現実的にできない」とする。地域が原発とどう向き合い、共存するのか。住民の安全・安心を前提とした行政と中電の対応が求められる。

(2011年4月22日朝刊掲載)

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