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岐路の原発 揺れる中国電力 <下> 地元への波紋

■記者 久保田剛

甚大被害 意識に変化も 交付金頼み 厳しい現実

 中国電力の原発建設計画をめぐり、根強い反対運動がある山口県上関町。福島第1原発の最初の爆発から4日後の3月16日、町議会本会議で反対派町議の一人が早速、町側の姿勢をただした。

 町議「中電に建設中止を求めるべきだ」

 柏原重海町長「原子力発電を推進しているさまざまな理由がある。議会の意向を無視し、私の一存で決められない」―。

振興策の財源

 反対派町議は翌日の本会議で動議も提出。中電が既に中断した準備工事だけでなく、地質の追加調査を含む全作業の中断を求めるよう主張した。しかし議長を除く11人の採決の結果、賛成は3人。推進派が多数を占める議会の構図が変わらないことを印象づけた。

 その動議の否決から1カ月余り。上関海峡を望む高台の小学校跡地では、1月に着工された町の温泉施設の建設が急ピッチで進む。約9億円の事業費の財源は原発計画に伴う国の交付金である。

 中電に上関原発の埋め立て免許を出している山口県の二井関成知事は、事故後の会見で原発の安全性について国の徹底した検証が必要との考えを示した。福島では放射性物質の放出が続き、国のエネルギー政策も揺れる。しかし、観光振興を目的とする温泉施設の今秋のオープン予定は変わらない。

 「エネルギーの安定供給、二酸化炭素削減という国策に協力する誇りがある。交付金だけが目的じゃない」と推進派の一人、右田勝町議(69)は言う。一方で「原発誘致を見直せば町は成り立たない」。農漁業のほかに主な産業がない人口約3500人の過疎の町の現実も認める。

 同町は1982年6月に当時の町長が原発誘致を表明。84~2009年度に受けた原発関連交付金は計約43億円に上る。高齢者保健福祉センターや診療所の建設費、看護師の人件費、祭りの運営費…。さまざまな施策の財源としてきた。

 町の11年度一般会計予算は総額43億9400万円。温泉施設の整備を含む約11億円は原発関連の交付金を財源とする。推進派は「計画見直しは町民の負担増につながる」と危機感を募らせる。

再び選択の時

 しかし、町民の意識に変化も芽生えている。計画に賛成してきた農業男性(74)は「わしら年寄りはいい。でも、次の世代に原発を残していいのかと、不安になった」と打ち明ける。反対運動の拠点となってきた同町の離島、祝島で子ども2人を育てる農業山戸孝さん(33)は感じる。「海と土が壊される現実が福島で起きた。自分の問題として捉える町民が増えた」

 柏原町長の2期目の任期は10月4日に満了する。原発の恩恵とリスクにどう向き合うのか。町の誘致表明から9度目の町長選で、住民はあらためて判断を迫られる。過去8度とも推進派のリーダーを選んだ瀬戸内の町。次の選択は地域の岐路となり、国の政策にも大きく影響する。

(2011年4月23日朝刊掲載)

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