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連載・特集

島根原発 フクシマの波紋 <2> 耐震性

国の「安全」知事が異論 活断層めぐる議論の再燃も

 島根原子力発電所(松江市鹿島町)を望む高台に、原発の仕組みなどを紹介する中国電力の施設、島根原子力館がある。東日本大震災後の1カ月、同館で開かれる説明会への参加者が、前年同期の4倍にはね上がった。

住民の関心高く

 「福島の事故のニュースを見て訪れた。人ごとではない」。25日、倉吉市から妻と訪れた広田等さん(64)は眼下の原発を見やった。原発は地震に耐えうるのか―。住民の関心はかつてなく高い。

 住民の懸念を代弁する形で、島根県の溝口善兵衛知事は今月18日、県庁の知事会議室で原子力安全・保安院の黒木慎一審議官に迫った。「事故は、津波だけが原因なのか」

 津波による電源喪失で、原子炉が冷却機能を失ったとされる東京電力福島第1原発。しかし地震の揺れが、冷却装置の破損に影響した可能性も指摘されている。黒木審議官は事故の主原因は津波による電源喪失と説明。「原発の運転継続や再開に安全上、支障はない」とお墨付きを与えた。

 だが26日の会見。溝口知事は「安全性を判断できるデータが十分ではない」と、国の「安全」に異議を唱える。「地震が冷却系統や放射能の流出に影響を与えたのか、国は究明し対策を示す必要がある」と、地震の影響にこだわりをみせた。

変更相次ぐ中電

 背景には、島根原発近くの活断層をめぐる経緯がある。建設当初、中電は近くに考慮すべき活断層は「存在しない」としていた。それが1998年、原発の南約2.5キロに長さ8キロの「宍道断層」の存在を認める。2004年には10キロ、2008年には22キロに延長。その都度、国も長さを承認した。

 出雲市の会社役員原田明成さん(50)は1998年、島根県原子力発電調査委員会の委員として「8キロ」を承認した。「当時は納得したが、想定外が起きることを想定すべきと今となって思う」と複雑な心境を話す。

 島根原発の施設が健全に保たれる地震の揺れの最大加速度も、建設当初の300ガルが、補強工事などにより456ガル、600ガルへと変わった。

 地元住民の一部は、中田高・広島大名誉教授の地質調査を基に、宍道断層は全長30キロ以上あると主張。運転差し止め訴訟を起こしたが昨年5月、松江地裁により棄却された。

 九州大大学院の吉岡斉教授(科学技術史)は福島第1原発について「津波の前の地震動で重要施設が破損したのではないか」と指摘。「根底が覆った。原発の耐震安全性は前提からやり直すべきだ」と訴える。

 中電は「地震の被害など最新の知見を取り入れその都度、安全対策を強化している。福島原発事故の知見も反映させる」とし、耐震安全性の見直しに前向きな姿勢を見せる。

 ただ福島第1原発の事故の長期化で、耐震安全性見直しのめどは立たない。今後、宍道断層の危険性をめぐる議論が再燃する可能性もある。

(2011年5月28日朝刊掲載)

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