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島根原発 フクシマの波紋 <3> 高経年化

福島と同型 不安を増幅 1号機再開へ高いハードル

 「原子力発電所のメンテナンスにかける労力と金は、普通の発電所とは比べものにならない。(古くても)安全性に問題はない」。中国電力の元役員は言い切る。だが東京電力福島第1原発の事故の影響を考え、苦渋の表情を浮かべた。「『大丈夫』だけでは住民の納得が得られない。どう説明すべきか…」

 元役員が念頭に置くのは、昨年3月から運転を止めている島根原発(松江市鹿島町)1号機だ。停止期間はすでに最長の1年2カ月。点検不備問題を受けて停止した後、定期検査に入り、福島第1の事故が起きた。

 島根県が今月19日開いた住民向けの島根原発などの見学会。「原発は何年運転できるのか」「国が継続を認めた古い原発で事故が起きたら、誰が責任を持つのか」…。1974年の運転開始後、37年たった1号機への懸念の声が相次いだ。

「国の説明必要」

 不安の原因は運転年数だけではない。事故が起きた福島第1との「符合」が、懸念を増幅させている。

 1号機の原子炉格納容器は福島第1と同じ型。主に70年代に導入され「マーク1」と呼ばれる。「マーク1型は新しいタイプの容器と比べ、水素爆発の抑制能力が低いという指摘がある」。島根県の溝口善兵衛知事はこう話す。「原子炉の性格が事故に影響したのか、国の説明が必要」と疑問を投げ掛ける。

 運転年数と福島第1との共通性。溝口知事が1号機について「総合的に考える必要がある」と廃炉も選択肢の一つとするのは、このような背景がある。

 そもそも原発には、法律に基づく明確な「寿命」がない。稼働から30年を過ぎると、必要に応じ機器を取り換える「高経年化対策」を電力会社が実施する。廃炉となった例は60~70年代に運転を始めた計3基がある。

60年運転を想定

 中電が想定する1号機の運転年数は60年。松井三生副社長は「60年運転は技術的に問題ない」と強調する。原子力安全・保安院の黒木慎一審議官も「高経年化したから機器が劣化し、事故が起きる確率が高いというものではない」と話す。

 ただ運転年数の長い原発への懸念は、世界的に高まっている。ドイツ政府は福島の事故後、80年までに建設された計7基を一時停止すると発表した。国内の原発立地自治体には、高経年化原発に限った安全基準を求める声もある。1号機の再開を住民が納得するには、より厳しいチェックが不可欠だ。

 安全対策のため、1号機には大きな追加工事費が求められる可能性が高い。1号機の出力は46万キロワットと、来年運転開始を目指す3号機の3割強にとどまる。ある中電幹部OBは「大きな投資コストに見合うのか、経営陣が判断することになるだろう」と見通す。1号機の位置付けが、中電の経営課題になる可能性もある。

マーク1
 米ゼネラル・エレクトリック(GE)が開発した原子炉格納容器。福島第1原発1~5号機、島根原発1号機など、国内初期の沸騰水型原発に採用されている。後に造られた原発に比べ格納容器が小さい。島根原発2号機はマーク1の改良型。

(2011年5月29日朝刊掲載)

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