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連載・特集

島根原発 フクシマの波紋 <4> 防災計画

県都 「20万人避難」現実味 大半が20キロ圏 想定覆り苦悩

 30日、松江市の法吉(ほっき)公民館であった中国電力による島根原発(松江市鹿島町)の津波対策の説明会。原発から約7キロに住む松江市の和田二郎さん(71)は、原発事故の際、自分がどこに避難すべきかを知らず不安を感じた。

 東京電力福島第1原発の事故を考え、30キロ以遠に避難すべきだと感じる。だが「県西部まで逃げるべきか。安全な避難先はあるのか…」と戸惑う。

指令拠点は9キロ

 県庁が全国で唯一、原発から10キロ圏内にある島根県。人口約20万人の県都松江市は、大部分が20キロ圏内に収まる。20キロ圏は、福島の事故では立ち入り禁止の「警戒区域」とされた。20万人の集団避難の想定が現実の課題となり、市は苦悩する。

 1月、県などは事故を想定した原子力防災訓練を実施した。原発から約3キロの鹿島町古浦自治会の亀城幸平会長(61)の避難先は、原発から9キロの県庁近くの県職員会館だった。

 同会館そばには、事故発生時に指令拠点となる「県原子力防災センター」(オフサイトセンター)がある。「福島のような事が起きたらセンターまでも被曝(ひばく)する」。亀城会長は司令塔の機能不全を懸念する。

 「県庁の近くだから」。センターの立地の理由を島根県はこう説明する。国は原発から8~10キロ圏内を「防災対策を重点的に充実すべき地域(EPZ)」と規定。それ以遠では避難が必要な事態は起きないとの想定だった。防災計画の想定は根底から覆った。

 実際に福島県で避難は混乱した。3月16日に福島県いわき市から出雲市に避難した吉田勉子(やすこ)さん(70)は、原発の南約30キロの自宅で被災。原発から約30キロにある体育館にいったん避難した。「テレビもなく情報が入らなかった」。吉田さんは、屋内退避指示が出たのを知らず帰宅してしまう。再び戻ると、体育館は30キロ圏にあるため閉鎖されていた。

単独の対策困難

 松江市にはオフィスも多く、観光客も訪れる。大規模な収容場所をどう確保するか。訓練をどう実施するのか。「市単独ではどうにもできない」。松浦正敬市長は県に訴える。県は「原子力防災連絡会議」を発足させ、広域的な住民避難計画の検討を始めた。

 影響は30キロ以遠に及ぶ。福島の事故では、原発から最大45キロを超える飯舘村が、全住民が避難対象の「計画的避難区域」に指定された。庄原市高野町の一部は、島根原発から50キロ圏内に入る。市危機管理課によると、原発の防災計画を検討したことはほとんどない。

 原発の周辺人口を分析した埼玉大教育学部の谷謙二准教授によると、島根原発から50キロ圏の人口は約71万8千人に達する。中電にも、広域の自治体に対する協定締結などの対応が求められる。

 松江工業高専環境・建設工学科の浅田純作教授(災害社会工学)は「行政は、原発から何キロという線引きにこだわるべきではない。最悪の事故を前提とした避難計画に改める必要がある」と話す。

EPZ
 原子力安全委員会が防災指針で定める「防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲」の略語。原発の場合は半径約8~10キロ圏内を目安とする。自治体はこれに基づき、原子力災害に関する地域防災計画を策定している。起こり得ないような事態を仮定し、十分な余裕を持って距離を定めたとしている。

(2011年5月31日朝刊掲載)

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