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連載・特集

島根原発 フクシマの波紋 <5> 3号機

■記者 永井友浩、漆原毅、山本和明、樋口浩二、永里真弓

運転開始 地元「待った」 エネ政策象徴 世界から注目

 中国電力が31日発表した、島根原子力発電所(松江市鹿島町)3号機の運転開始の延期。島根県庁で会見した中電の担当者は、福島第1原発の事故を踏まえ「15メートルの津波に対応できる対策が済むまでは運転を始めない」と険しい表情で話した。

「見通し立たぬ」

 さらに不具合を起こした制御棒を駆動する装置の修理などが遅れ、「6月を予定していた燃料装填(そうてん)に間に合わず、運転開始時期の見通しも立たない」と説明した。

 中電が来年3月の運転開始を延期する理由に挙げた、津波対策と制御棒の装置の修理の遅れ。だが現状では、これらの課題をクリアしても運転開始は困難だ。福島第1原発事故を受け、地元から事実上「待った」を掛けられた状態だからだ。

 事故後、島根県の溝口善兵衛知事は3号機の運転開始について「今までの安全基準でいいとはならない。事故原因を究明し、国が示す新たな知見を待って判断する」と繰り返し発言。津波や耐震性の新基準をクリアしないと、了承できないとの姿勢を示した。

 1、2号機の北西の山を造成した敷地に立つ3号機。ひときわ大きい建屋の外壁には塗装が施され、すでに完成同様に見える。工事進捗(しんちょく)率は4月末時点で93.6%に達している。

住民理解を強調

 手続き上、中電は運転開始へのハードルをほとんどクリアしている。完成後に使用前検査などを済ませれば、法的には中電の判断で運転を開始できる。ただ地元が懸念を示している状況で運転を始めることは困難。今月社長に就任する苅田知英副社長も「原子力はぜひ進めたいが、まずは住民の理解を得るのが重要だ」と強調する。

 まず国が事故を踏まえた耐震性などの新たな安全基準を示し、これに基づいた検査を経た上で、地元が判断する―。これが考えられる今後のシナリオだ。ただ事故の長期化で日程は見通せない。

 「フクシマの事故で原発の危険性が分かった。新たな原発はやめてほしい」。原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会の木原省治代表(62)は語気を強める。

 3号機は、地域の問題にとどまらない象徴的な意味を持つ可能性もでてきた。稼働すれば、事故後に国内で新規稼働する初の原発となる可能性が高いからだ。建設中の原発はほかに大間(青森県大間町)と東通1号機(同県東通村)。3号機が最も運転開始に近い。

 菅直人首相は、30年までに原発を14基以上増やすとしたエネルギー基本計画の見直しを表明。見直しは着工前の原発が対象になる可能性が高いものの、日本のエネルギー政策に世界が注目する。

 3号機が「ポスト・フクシマ」の第1号として稼働する場合、「安全性を高めた原発」を発信する役割を担うことになる。期せずして3号機は、日本のエネルギー政策の大きな節目に立たされることになった。(おわり)

島根原発3号機
 松江市鹿島町の約20万平方メートルに、2005年12月に着工した改良沸騰水型の軽水炉。出力は137万3千キロワットで、1号機の46万キロワット、2号機の82万キロワットを大きく上回る。

(2011年6月1日朝刊掲載)

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