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揺らぐ上関原発 <上> 知事の思惑

■記者 金刺大五

国策への協力姿勢 不変

 27日午前、山口県議会の代表質問。「国の原子力政策や具体的な安全対策が示されていない現時点で、新たな手続きに入ることはできない」。上関町の原発建設予定地の公有水面埋め立て免許の延長をめぐり、二井関成知事が険しい表情で答弁した。議場には緊迫感が漂った。

 上関原発予定地の埋め立ては2009年10月に着工。反対派の抗議活動でほとんど進まず、福島第1原発の事故後は中断している。完工期間(3年)の期限は2012年10月。中国電力は免許延長の県への申請が避けられない情勢となっている。二井知事は延長の可否について今定例会で「大きな方向性を出す」としていた。

 議場の外で報道陣に囲まれた二井知事。「もし工事が再開しても火薬使用などは現状では許可できない」「いまの状況では延長申請はしないだろう」。中電へのけん制とも取れる発言をしてみせた。

 周囲を驚かせた答弁に伏線はあった。福島の事故後、二井知事は原発建設と埋め立て免許のあり方への疑問を再三、唱えていた。

制度に疑問符

 3月24日の記者会見。「埋め立てが完了しても(原子炉の設置)許可が出ないとどうなるんだ」。二井知事は、免許交付が国の原子炉設置許可に先行する制度の問題点を指摘した。

 5月19日には、予定地の埋め立て免許について失効も視野に入れて検討すると表明。6月7日には原発計画について「新たな国の政策が出ないと次に進められない」と述べた。

 知事のこうした変化は県議会の原発推進派も敏感に察知していた。県議の一人は今定例会の開会前、知事側に「中電から延長申請も出てない。もう少し国の動向をみてはどうか」と伝えた。

 27日の代表質問の直前も、答弁内容をつかんだ別の県議と知事との間で電話での激しいやりとりがあった。

 県議 「原発推進で一緒にやってきたじゃないか。(延長を認めないとは)言い過ぎではないか」

 二井知事 「よく答弁を聞いてほしい。今までと変わっていない」

脱原発は否定

 二井知事がこの県議に「不変」と強調し、答弁で堅持するとしたのは国のエネルギー政策への協力姿勢である。国の新政策に上関原発が盛り込まれれば、免許延長を認めない根拠とした予定地の土地利用計画の不透明さは解消される―。二井知事は「脱原発」の姿勢を否定した上で、こう示唆する。

 県議会会派の自民党に所属する友田有氏は「現時点での見解。情勢が変われば延長を認めることもある」と冷静さを保つ。一方、反原発を掲げる社民党の佐々木明美氏は「やはり国まかせ。県の主体性が見えない」と批判する。

 二井知事は4期目の今期での引退を公言。来年8月で任期は満了する。国のエネルギー政策や原発に関する安全基準は検討が始まったばかり。在任中に示されるかは見通せない。県民不安が高まったまま計画の足踏み状態が続けば、次の知事選の最大の争点となる可能性もはらむ。

 上関町に原発建設計画が浮上して29年。二井知事の見解は、中電や地元の推進派に衝撃を広げた。かつてない逆風にさらされた計画をめぐる動きを追う。

上関原発建設計画
 中国電力が山口県上関町長島に改良沸騰水型軽水炉2基(出力各137万3千キロワット)の建設を計画。約33万平方メートルの土地を造成し、うち約14万平方メートルは海面を埋め立てる。建設費約9千億円。1号機は2012年6月の本体着工、18年3月の運転開始を予定している。

(2010年6月29日朝刊掲載)

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