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連載・特集

揺らぐ上関原発 <下> 新設への逆風

先見通せず動けぬ中電

   「上関では29年もの長い間、賛成、反対の方が反目している。時間がかかったことを双方におわび申し上げたい」。中国電力の山下隆会長は6月29日、広島市中区の本社であった会見で苦渋の表情を浮かべた。

次世代に託す

 中電が「経営の重要課題」として進めてきた上関原子力発電所(山口県上関町)の建設計画。反対派住民の抗議で準備工事が進まず、さらに福島第1原発の事故が状況を一層困難にした。「道のりは厳しいが、次の世代に託したい」と、苅田知英社長に建設推進を期待した。

 原子炉設置許可申請中の原発計画のうち、新規立地は上関だけ。苅田社長は仮定の話としながらも、国が原発の新規立地を認めない場合は「従わざるを得ない」と話す。国は原子力拡大のエネルギー政策を見直す方針を示しており、上関原発の計画は不透明さを増している。

 JR柳井駅(柳井市)から南に約20キロ。車1台がやっと通れる山道を抜けると、海に面した建設予定地が広がる。地質調査の作業員はいるものの、原発事故後の準備工事の中断で、反対する住民も含め人の姿は減った。

 建設予定地の埋め立て免許の延長を認めない―。山口県の二井関成知事の発言で、中電は建設工事を進めることが困難になった。「この状況では、知事はこう発言するしかないだろう」。中電のある幹部は受け止める。国の判断を経て知事が再び「ゴーサイン」を出すまで、中電は事態を見守る姿勢を示す。

 中電にとって上関原発建設の緊急度は、島根原発3号機の増設と比べると高くはない。「上関は極めて難しい。優先順位としては島根だろう」。中電の元幹部はこうみる。出力が国内最大級の島根3号機が稼働すれば、当面の電力供給にも不安はない。一方で、上関計画の旗を自ら降ろす選択肢は、今のところ中電にはない。

期待込め注視

 二井知事が慎重姿勢を増し、周辺自治体の議会が相次ぎ上関計画の凍結、中止を要請する中でも、立地町となる上関町は推進姿勢を維持する。中電は、福島の事故後も同町から「安全な発電所を造ってほしいとの要望が寄せられている」と説明する。計画浮上から29年。「地元重視」を掲げ続けてきた中電が、地元の意向に反する形で計画を撤回する可能性は低い。

 中電の背後には、電力業界の視線もある。福島の事故後、初の新規原発の着工となる予定の上関原発を、原発拡大方針を維持する業界全体が、期待を込めて注視する。

 株主総会で上関原発の計画中止などを株主提案した「脱原発へ!中電株主行動の会」の溝田一成代表世話人(61)は「中電は原発を多く持っていない。やめることは簡単にできると私たちは思う」と訴える。だが、自ら方針を転換しにくい複雑な構図の中、中電は「推進」を掲げ続ける。

 来年6月の本体着工、2018年3月の運転開始の日程変更は不可避の情勢。「福島の事故がどう落ち着いていくのか、見た上でないと地元の納得は得られない」と苅田社長は話す。計画の行方をだれが、いつ、どう決めるのか。見通せない状態が続く。

(2011年7月2日朝刊掲載)

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