×

連載・特集

ヒバクと向き合う 日本母親大会からの報告 <下> 食の安全

「子の健康は」将来に不安

 7月31日、大会2日目の分科会。広島市中区の会場に定員の1・5倍の約900人が詰め掛けたシンポジウムがあった。「どうなる?どうする?揺らぐ日本の食」がテーマ。11歳と3歳の子どもがいる横浜市の団体職員松本和恵さん(38)も、食品の放射能汚染をめぐる講演を熱心に聞き入っていた。

 「万が一、子どもから『あの時お母さんが食べさせたから』と言われたら…。子どもの口には安全なものしか入れられない。学ばなくては、と参加したんです」

調理法を工夫

 福島第1原発事故の後は被曝(ひばく)からわが子を守るため、雨の日は必ずかっぱや傘を使わせてきた。出産を控えた知人夫妻は飲食店を閉め、岡山県に引っ越した。別の知人は夫を残し子どもと実家に避難した。自身も食材の産地に神経をとがらせるようになった。

 シンポで参加者の強い関心を集めたのは「放射能からママと子どもを守る本」などの著書がある日本大の野口邦和専任講師(放射線防護学)の講演だった。野口さんは、野菜を水にさらしたり、肉を事前にゆでたりして、放射性物質を取り除く調理法を紹介。「国の暫定基準値を超える食品が出ている。食べ方に工夫が必要」と指摘した。

 原発から漏れる放射性物質は事故直後に比べて100万分の1以下に減った、とも述べた。松本さんは「少し安心した。野菜をしっかり洗うなど工夫すれば、放射能の恐ろしさに過剰に反応しなくていいと思えた」。専門家の分析に、ほっとした表情を見せた。

 「幼い子を持つお母さんは、正確な情報がないことで不安を募らせている」。そう会場で訴えたのは、8歳と2歳の子がいる名古屋市の団体職員石谷由子さん(37)だ。育児サークルでもフクシマが話題になる。「学校給食の野菜は地元産なの」「放射能はただちに健康に影響しない、って言うけど子どもの将来はどうなるの」…。石谷さんは「新聞やテレビを見ても心配になるばかり」と困惑する。

 会場には、見えない放射能の恐怖におびえて首都圏から九州へ自主避難している参加者もいた。埼玉県入間市の主婦小野惇子さん(29)は、佐賀県唐津市の親戚宅に9カ月の長男とともに身を寄せている。

 離乳食が始まった長男には汚染が少ない地域の食材を与えたい。それなのに―。九州でも福島県に近い地域の野菜が出回り、福岡県では放射性セシウムに汚染された牛肉が売られていた。「検査がザルの状態に見える。汚染が広がっていると思うと居ても立ってもいられない」。原発から千キロ離れて暮らす今も、不安は消えない。

数年 精米して

 会場の母親たちが、今後心配なのはコメだろう。間もなく新米が食卓に上る。田んぼは汚染されていないのか。稲穂に放射性物質が残っていないのか。

 野口専任講師は「産地によっては、国の規制を超えないコメも微量の放射性物質を含む可能性がある。5、6年は玄米でなく精米して食べた方がいい」と助言し、強く訴えた。「風評被害を防ぐためにも、母親たちの安心を取り戻すためにも、国は放射能汚染の監視、そして情報開示をもっとしっかりするべきだ」(余村泰樹、治徳貴子)

(2011年8月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ