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連載・特集

急拡大の平和市長会議 加盟5000都市達成 <上> 数の力

核廃絶 存在感で訴え

 平和市長会議(会長・松井一実広島市長)の加盟都市が5千の大台に達した。1982年の設立から約30年。都市の連帯で核兵器廃絶を目指す理念へ共感の輪を広げてきた。その歩みをたどり、課題を探る。(金崎由美)

 平和市長会議が事務局を置く広島市の外郭団体、広島平和文化センター(中区)には連日、国内外の都市から加盟申請のメールやファクスが届く。

 「加盟都市や非政府組織(NGO)、市民が自国の市長に呼び掛けてくれる協力が大きい」と杉浦信人担当課長。初めて目にする外国の都市から申請が届くたび、被爆地発のネットワークの広がりを実感している。

一気に4000市超

 前身の世界平和連帯都市市長会議が発足したのは冷戦期の82年。米ニューヨークの国連軍縮特別総会で荒木武元市長(故人)が国境を超えた連帯の必要性を訴えたのがきっかけだ。

 会長は歴代、広島市長が務める。平岡敬元市長までの2代で加盟都市数は464。秋葉忠利前市長が就いた99年以降、4千市以上が加盟し、組織は急拡大する。

 3期12年で29カ国355日に上る海外出張を敢行し、加盟を強力にアピール。2008年からは国内都市にも呼び掛けた。会費など財政負担がない点も加盟へのハードルを下げた。

 秋葉前市長は狙いについて、在任中の会見で「都市の組織の圧倒的多数が核兵器廃絶を支持しているとなれば、国連加盟の各国政府は今まで以上に廃絶へ努力をしてくれる」と説明している。

 会議は20年までの核兵器廃絶を目指す「2020ビジョン」を掲げ、その実現に向けた国際的な働き掛けを活動の主軸に据える。国際機関へのロビー活動の専門家や平和活動家など欧米出身の3人を広島平和文化センターの常勤専門委員に採用。副会長都市のベルギー・イーペルの市役所に国際事務局を置く。

 広島平和文化センターのスティーブン・リーパー理事長によると、加盟5千都市の人口は計10億人に上る。「『数』は国際社会で発言力を高める力になる」と強調する。

 昨年5月、国連本部での核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせ米国を訪れた日本被団協の坪井直代表委員は「平和市長会議は国連で活動するNGOの中心にいた。被爆者にとっては心強い」と振り返る。

名ばかり批判

 一方、加盟都市の拡大に重きを置く会議の戦略が故に、活動実績が伴わない「名ばかり加盟都市」が多いとの批判は少なくない。

 肝心の広島市で会議への市民参加が活発とは言い難い現状もある。広島市立大広島平和研究所の水本和実教授は「首長だけでなく市民の交流を中心に据えるべきだ。原爆に加え世界各地の核被害や紛争、戦争を視野に入れれば裾野は広がる」と提案する。

 5千を超える都市をどう束ね、さらに具体的な活動へつなげるのか。今春、会長のバトンを受け継いだ松井市長の手腕が試される。

2020ビジョン(核兵器廃絶のための緊急行動)
 平和市長会議による2020年までに核兵器廃絶を目指す提案。2003年10月の理事会で打ち出した。核拡散防止条約(NPT)再検討会議をにらみ2008年4月、ビジョン達成のプロセスとして核兵器禁止条約を2015年に発効させることなどを列記した「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を発表。2010年5月のNPT再検討会議での採択を目指したが実現しなかった。現在も活動目標に据えている。

(2011年9月21日朝刊掲載)

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