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大差の結末 検証 上関町長選 <上> 有権者の揺れ

「反対派」の票も現職に 町活性化 視界不良で

 25日投開票された山口県上関町長選は、中国電力による上関原発建設計画の推進派が推した現職柏原重海氏(62)が、計画に反対する元町議の新人山戸貞夫氏(61)を破り、3選を決めた。福島第1原発事故を受けて脱原発依存の機運が全国的に強まる中、町民は大差で、推進派リーダーの続投を選択した。背景を検証し、今後の町政の課題を探る。

 「逆風の中、全く予想していなかった高得票。感謝します」。当選を決めた柏原氏の祝勝会で、壇上に上がった選対本部長の佐々木襄町議(80)は声を張り上げた。すぐ横に立つ柏原町長の表情は険しいまま。万歳は、しなかった。

 原発建設構想が浮上した1982年以降、町長選は9度目。推進派と反対派の対決は推進派の9連勝となった。柏原氏の得票率は過去最高の67・4%。推進派の得票率としては、最も高かった前回を0・5ポイント、柏原氏と山戸氏が対決した前々回を8・4ポイント上回った。

「票分析せず」

 「国に揺るぎない民意を示すことができた」と推進派は息巻く。反対派の2倍を超える得票は、そっくり原発建設への意志なのか。当選から一夜明けた26日、柏原氏の記者会見で質問が出た。

 記者 「原発建設を望む人ばかりからの得票ではないのでは」

 柏原氏 「有権者はさまざまな判断で投票する。賛成派も反対派も全て町民。票の分析はしません」

 中国新聞が町内の主な投票所5カ所で投票を終えた200人にしたアンケートでは「原発計画に賛成」が54・5%、「反対」は43・0%、「どちらでもない」は2・5%だった。柏原氏に投票した人は67・5%。うち20・7%は「反対」「どちらでもない」と答えた。原発関連の財源による町の活性化と、事故への不安。はざまで有権者は揺れた。

 柏原氏に投票した主婦(43)は「事故があれば古里で生活できなくなるけど、町政を任せられるかを考えた」と行政手腕を重視。前回に続き柏原氏に入れた男性(70)は「原発事故が起きれば人の手に負えない。心は揺れている」と打ち明ける一方、原発のない場合の町の振興策については「頭が真っ白」と表現し、思い浮かばないとした。

財源は不透明

 柏原氏は、原発関連の交付金などで町の振興を掲げている。しかし、来年以降の交付金がどうなるかは不透明だ。原発計画に中立とした自営業男性(69)は「原発交付金は求め続け、もらえない場合にも備える。柏原氏ならできるんじゃないか」と話した。柏原氏は原発のない町づくりも議論する地域ビジョン検討会(仮称)を発足させる方針。この男性は検討会の議論を踏まえ、原発への最終的な賛否を決めるという。

 「全国の常識が上関の非常識。それが今回の選挙結果」。落選が決まった直後、山戸氏は反対運動の拠点となっている祝島の事務所で淡々と語った。前回立候補した8年前に比べ、「家の外に出て聞いてくれる人は増えた。福島の事故で意思表示しやすい環境になった」とみる。ただ原発に対して膨らんだ疑問は、山戸氏への投票に結びつかなかった。

(2011年9月27日朝刊掲載)

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