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大差の結末 検証 上関町長選 <下> 「国策」のあおり

交付金事業 見えぬ未来 代替財源示せぬまま

 福島第1原発事故から5カ月近く経過した8月4日。中国電力が原発建設を計画する山口県上関町の町長、柏原重海氏(62)は東京都内の資源エネルギー庁を訪ね、幹部と面会していた。

 用件は、原発建設計画に伴って2009年度から4カ年に分けて同町が受ける予定の特別交付金計25億円についての柔軟な対応だった。柏原氏は交付金を施策に使える期間の延長を認めてもらえるかどうか打診した。

 しかし、くしくもこの日、経済産業省は人事異動を発表。対処する、と柏原氏に答えた幹部は同庁を離れた。「新たなエネルギー政策推進に向けた人心の一新」―。当時の海江田万里経産相による主要ポストの入れ替えだった。

翻弄される町

 菅直人前首相は脱原発依存を表明。菅氏の辞任を受けて発足した野田佳彦内閣で、経産相に就いた鉢呂吉雄氏は上関原発建設は困難との認識を示した後、福島の被災地を「死の町」と発言。わずか9日で閣外に去った。

 後任の枝野幸男経産相は原発新設の是非を「個別に判断する」との立場。野田首相は原発について「新設は困難」とする一方、輸出は続ける考えを示す。

 福島の事故後の政府の対応や閣僚の発言に、瀬戸内の小さな町の住民は翻弄(ほんろう)されている。

 「揺るぎない方針を出してほしい」。原発推進派団体、町まちづくり連絡協議会の井上勝美事務局長(67)は言う。原発誘致の最大の理由は、建設を前提にした国の交付金だからだ。

着工見合わせ

 町が1984年度から昨年度までに受けた交付金は約45億円。使途は看護師の人件費や町営バス運行費などにも及ぶ。しかし、福島の事故で来年度以降も交付があるかどうか分からなくなった。

 福島の事故前から工事を進めていた温浴施設は12月にオープンする。町内のサービス業では最多の約30人の雇用を生み、定住対策も兼ねている。一方、整備費と運営費に交付金を充てる予定だった総合文化センターと農水産物市場は本年度に予定した着工を見合わせている。

 町の本年度一般会計当初予算の歳入約44億円のうち、原発関連交付金は過去最高の約11億円。柏原氏は選挙戦で子どもの医療費や高齢者のバス運賃の補助などを継続すると訴えた。しかし来年度以降、仮に交付金がなくなった場合の具体的な財源の裏付けにはほとんど言及しなかった。

 野田首相は22日、国連の原子力安全首脳会合で、中長期的なエネルギー構成の在り方は来年夏をめどに具体的な戦略と計画を示すとした。原子力政策の行方を見通せないまま、柏原氏は「いばらの道」と表現する3期目の町政運営をスタートさせる。(久保田剛、堀晋也)

(2011年9月28日朝刊掲載)

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