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連載・特集

公約点検 松井広島市政半年 <下> 平和・対話

試される「迎える」手腕

市民への発信 物足りず

 「広島に来て(被爆の)実相を見てもらう。平和への思いを持ち帰り広げてもらう展開ができれば」

 広島市の松井一実市長は就任半年を目前にした6日の記者会見で、公約に掲げる「出かける平和から迎える平和」の狙いをあらためて説明した。核兵器廃絶を訴え、海外を飛び回った秋葉忠利前市長との違いを印象付けた。

海外出張短く

 松井市長は海外出張の日程を可能な限り短く抑えるよう事務方に指示。自身が会長を務める平和市長会議の理事会(11月、スペイン)出席も、別々で予算計上されていたスイス・ジュネーブの欧州国連本部訪問と合わせて1回の出張にするよう調整を進める。

 一方、平和市長会議は9月、加盟都市数が5千の大台を突破。世界で拡大を続ける。松井市長は加盟促進の姿勢は維持する一方、事務局の基盤強化や加盟都市の財政負担など「賛同」から「参加」へ組織の質の変化を模索する。

 関係者との対話や調整を重視する松井市長は、8月6日の原爆の日に読み上げる平和宣言の起草にも独自のスタイルを導入した。自らが起草した歴代市長のやり方に対し、公募した被爆体験を有識者の選定委員会で絞り込んで引用した。

 市長選の公約では「世界恒久平和実現のための核廃絶サミットなど国際会議の誘致」を掲げた。就任後には具体的に2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の誘致を言明した。

 米国など核保有国を含む多くの国の代表が出席する国際会議の誘致は、都市機能の面からも相当ハードルが高い。だが松井市長は「可能性はゼロでない」と意欲をみせる。

 松井市長は平和行政の在り方について「軍事力をコントロールする国と市民生活を守る自治体では立場が違う」との基本認識を示す。市民の暮らしに立脚した訴えを世界にどう響かせるのか。被爆地のリーダーとしての手腕が試される。

談義は団体と

 公約では周辺市町や市民との対話も重点的に盛り込んだ。市民と直に意見交換する「市政車座談義」は、8月に中区で初めて開催。本年度は安佐南区など3区でも開く。参加対象は市民個人でなく、市が会場ごとに希望する1団体を選ぶ。

 秋葉前市長が始めた集会型のタウンミーティングや、市長と市民が一対一で話すオフィスアワーは廃止した。

 中区での車座談義では市中心部の店主たち12人と商店街の活性化などを話し合った。松井市長は「議論を通じ地域をどうしたいか考えて」と呼び掛けた。

 ある参加者は「市長と直接意見を交わせてよかった」と評価。別の一人は「『みんなで考えて』と言われても。市長がどうしたいか伝わってこない」と漏らした。

 市民との対話姿勢は時間や回数だけで測れない。ただ多様な民意を吸い上げ、自らの考えを発信していくという面でまだ、物足りなさは否めない。(金崎由美、藤村潤平)

≪松井市長の公約と半年後の状況≫

◇公約
◆半年後の状況

◇世界恒久平和実現のための核廃絶サミットなど国際会議の誘致
◆2015年のNPT再検討会議の誘致を表明

◇「出かける平和から迎える平和」
◆海外出張の日程の抑制▽平和市長会議の運営方針の変更(加盟都市の費用負担を提案予定)

◇被爆体験の継承
◆平和宣言の文言に引用する被爆体験談を公募

◇近隣市町との連携強化
◆まち起こし協議会の設置に向けて準備

◇市民との対話
◆市政車座談義の開催

◇広島県との連携
◆11年ぶりの職員相互派遣

◇「わくわくライフ広島」の実現(ワーク・ライフ・バランス)
◆ハローワークの権限移譲を国に提案

(2011年10月14日朝刊掲載)

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