×

連載・特集

1万3000人の「黒い雨」 データの意義を聞く <下>

広島大原爆放射線医科学研究所 大滝慈教授

 ―データの価値をどう見ていますか。
 黒い雨を浴びたかだけでなく、その後の病気や死因も把握した放影研の被爆者の寿命調査のデータであることが大きい。雨と健康状態の関連性を探れるかもしれない。

 放影研はこれまで、原爆放射線による直接被曝(ひばく)ばかりに注目してきた。黒い雨による内部被曝などの間接被曝も直接被曝として解析してきた。今回のデータが活用できれば、直接被曝の線量だけで健康への影響を考えてきた前提が覆る可能性がある。

 間接被曝の影響を解析できれば、福島第1原発事故による放射線の影響に不安を持つ人たちの参考情報になる。

  ―広島市などが2008年、約3万7千人を対象に実施したアンケート結果を基に、これまでの想定より約3倍の範囲で雨が降ったと推定されました。
 回答数が少なかった中山(東区)古市(安佐南区)庚午(西区)などの地区については解析に課題が残った。今回のデータの存在を知っていたら活用しただろう。

 ただ、放影研の寿命調査は爆心地から約10キロ以内が対象で、降雨地域が従来想定されているより広い範囲だったかどうかを証明するデータではないだろう。10キロ以内の降雨状況をより正確に推定する手掛かりになる。

 ―放影研はデータを解析する意向を示しています。要望はありますか。
 1万3千人のデータは黒い雨を「浴びたかどうか」「どこで」という情報に限られている。被曝線量などと違い、量に置き換えてデータ化することが難しく、解析には相当の試行錯誤が必要だ。

 だからといって放影研が「解析したが注目すべき結果は得られなかった」と終了してしまうのではいけない。

 データそのものを公開した上で、外部の複数グループがさまざまな見地から解析をして結果を突き合わせるべきだ。被爆者の協力に基づく研究調査の成果は被爆者や福島をはじめ世界に還元されるべきもの。放影研の対応に大いに注目している。 (金崎由美)

おおたき・めぐ
 広島大大学院理学研究科修士課程を修了。1975年、広島大原爆放射能医学研究所(当時)助手。95年から教授。2008年の黒い雨に関する広島市の調査で解析を担当した。「黒い雨」指定地域に関する厚生労働省の検討会ワーキンググループ委員。専門は応用統計学と計量生物学。理学博士。60歳。

黒い雨
 原爆投下直後に降った放射性物質や火災のすすなどを含む雨。国は激しい雨が降ったとされる「大雨地域」をがんや肝硬変など国が定める病気になれば被爆者健康手帳を取得できる「健康診断特例区域」に指定している。厚生労働省は昨年12月、指定地域より広範囲で住民の心身に健康不良があるとする広島市などの調査を基に、指定地域を広げるかどうか科学的に検証する有識者の検討会を設置した。

(2011年12月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ