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連載・特集

激動2011 中国地方から <1> 原発立地

厳しさ増す住民の視線

 東日本大震災が日本を揺るがした2011年が終わる。中国地方に震災と原発事故の余波が広がり、ヒロシマの役割が問われた。広島市ではトップが交代。凶悪事件が相次いだ。激動の1年を振り返る。

 12月の冷たい雨が降る中、真新しい建物に入ると、金庫のような分厚い扉が目に付いた。福島第1原子力発電所の事故を受けて取り換えた防水性の高い水密扉だ。ほぼ完成した中国電力の島根原発(松江市鹿島町)3号機で津波対策が進む。

対策に400億円

 「福島のような事故を二度と起こさない覚悟で安全対策を徹底する」と中電の松井三生副社長。海抜15メートルの防波壁、高台に置いた非常用ガスタービン発電機の設置に取り組む。

 1~3号機で400億円近くを投じる対策はしかし、直ちに運転開始に結びつくわけではない。3月11日を境に、原発を取り巻く環境は一変した。

 今年初め、島根3号機は3月に燃料装塡(そうてん)、今月に運転開始の予定だった。制御棒駆動装置に不具合が見つかったこともあるが、安全対策を進めるため中電は5月、時期を未定と改めた。

 地元に「反原発」の大きな声は広がっていないが、原発を見る目は厳しさを増した。運転を停止したままの同原発1号機について、島根県の溝口善兵衛知事は「福島の事故原因と、それを踏まえた安全対策を国が示した後、総合的に判断する」とし、運転開始から37年を経ていることを懸念する。

 本体着工前の上関原発(山口県上関町)を取り巻く環境は、より厳しい。中電が建設プロジェクトを強化し、海面埋め立て工事を再開した直後の3月、福島の事故が起きた。

意見書相次ぐ

 山口県は、来年10月に期限が切れる海面埋め立て免許の延長を現状では認めない方針を示し、周辺の市町議会は計画の中止や凍結を求める意見書を相次ぎ可決した。

 上関町の住民は二分されたままだ。上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表は「完全中止が決まるまで闘い続ける」。推進派の上関町まちづくり連絡協議会の井上勝美事務局長は「事故原因を徹底検証し、揺るがない計画を示して」と注文する。柏原重海町長は、原発なしのまちづくりも視野に入れ始めた。

 原発計画に反対する島根原発増設反対運動の芦原康江代表は「官民一体で、自然エネルギーの活用策と原発に頼らない暮らしを真剣に検討するとき」と訴える。中国地方にこれ以上原発が必要か。代替エネルギーは何か。原発の地元と中電だけの問題ではない。(久保田剛、山本和明、樋口浩二)

中国電力の原発
 島根は1号機(出力46万キロワット)が1974年、2号機(82万キロワット)が89年に運転開始。現在は2号機だけの稼働で、定期検査中の1号機は再稼働のめどが立たない。建設中の3号機(137万3千キロワット)の運転開始は未定。上関は1号機(同)が2018年3月、2号機(同)が22年度の運転開始を目指している。

(2011年12月19日朝刊掲載)

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