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連載・特集

激動2011 中国地方から <2> 広島市長交代

「秋葉流」から次々転換

 「市民から託されたたすきを新たなエネルギーの持ち主に引き継いでもらいたい」

 1月4日の仕事始め式。2011年の広島市政は秋葉忠利前市長(69)の突然の今期限りでの退任表明で幕を開けた。被爆地を舞台にした20年夏季五輪招致に強い意欲をみせ、市議会や経済界には4選を目指すとの見方が広がっていただけに、市内外に衝撃が走った。  秋葉前市長はインターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」に「不出馬会見」の映像をアップする一方、記者会見では最後まで退任理由を明確に語らずじまい。核兵器廃絶を訴えて世界を飛び回り、理念が先行した五輪構想をはじめ市民に多くの賛否両論を巻き起こした3期12年の市政の幕引きも「秋葉流」だった。

五輪案を中止

 市長選は4月10日投開票の統一地方選前半戦で実施された。共産党1人、無所属5人の新人6人が立候補。自民、公明両党が推薦した元厚生労働省官僚の松井一実氏(58)が初当選した。

 松井市長は、前市長と衝突が続いた市議会との協調を掲げ、過去の市長選で分裂を繰り返した自民党の結束を重視する選挙戦を展開。秋葉市政後継をアピールし、民主党広島県連の支援を受けた前副市長たちを破った。

 「内政は任せんさいということですよ」。初登庁の日、松井市長は高揚感を漂わせ意気込みを語った。五輪の招致検討中止、旧市民球場(中区)の跡地利用計画見直し、広島県営広島西飛行場(西区)の廃止・ヘリポート化の受け入れ…。秋葉市政からの転換を矢継ぎ早に打ち出した。

 平和行政でも「出かける平和から迎える平和」を基本方針に掲げ、「脱秋葉」を印象づけた。国内外から寄せられる大量の折り鶴は展示せず活用する方針を決定。原爆の日の8月6日の平和記念式典で読み上げる平和宣言には、公募した被爆体験談を盛り込んだ。

見えぬ新施策

 一方、市長選で訴えた経済活性化などの新たな施策展開は「12年度当初予算を中心に実行する」と説明するにとどまる。「何をしたいのかが見えてこない」。松井市長擁立に関わった市議からもそんな声が漏れる。

 市債残高が1兆円を超す厳しい財政状況の中、路線転換と公約実現を目に見える成果として市民に実感してもらうのは容易ではない。118万都市の行政トップ、被爆地のリーダーとして「松井カラー」をどう打ち出すのか。手腕が問われるのはこれからだ。(藤村潤平)

第17回統一地方選
 政権交代後、初の統一地方選は東日本大震災の衝撃の中、4月10日と24日(一部は翌日開票)に投開票された。中国地方では島根、鳥取県知事や広島市長、5県議、尾道、三次、周南市長など計35の首長、議員の選挙があった。5県議選(総定数243)で民主党の獲得議席は前回2007年から8増の28。菅政権への逆風もあり地盤強化を図れなかった。自民党は前回と同じ127で「地方与党」の立場を維持。無投票当選者は前回の2.7倍の65人に上った。

(2011年12月19日朝刊掲載)

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