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連載・特集

基地とまち 2012岩国市長選 <下> 地位協定

米兵・軍属 裁けぬ不条理
事件・事故続発の不安

 「この辺りに倒れていた」。米海兵隊岩国基地所属の軍属の乗用車に、近くの男性=当時(66)=がはねられた交通事故の現場。直後に駆け付けた岩国市牛野谷町の山本久さん(75)が路面を指した。岩国市街地の門前川沿い。市道にはいまも、花が手向けられる。

 事故は2010年9月、起きた。通勤中だった軍属は自動車運転過失致死容疑で書類送検された。だが通勤は「公務中」とされ、日米地位協定のため不起訴となった。軍属は基地内での交通裁判で4カ月の運転制限と安全講習を科せられただけ。通勤時の運転は許可された。

運用見直し合意

 地位協定では軍属の公務中の事件・事故は米側に第1次裁判権がある。遺族は岩国検察審査会に不服を申し立てた。11年3月、審査会は「地位協定の在り方に納得できない」としながら「不起訴相当」と議決した。山本さんや遺族は「日本の裁判によって明らかにされない制度はおかしい」と不条理を憤る。

 日米両政府は11年11月、地位協定の運用見直しで合意。公務中の事件・事故でも米側が刑事訴追しない場合は軍属を日本で裁判できるようになった。その翌日、沖縄県で同年1月に起きた死亡事故で不起訴となっていた軍属が在宅起訴された。

 しかし、沖縄の4カ月前に起きた岩国の事故について、平岡秀夫法相は裁判権行使の対象にならないとの考えを示した。平岡法相は合意後の事件・事故が対象で、沖縄の事故は例外的に適用されたとした。

4000人が移住予定

 12月の岩国市議会で市長の福田良彦氏(41)は「不起訴相当と判断され、決着していると認識せざるを得ない」と述べた。平岡法相と連絡を取ったとし、「これ以上の対応は困難」との見通しを示した。

 その上で、福田氏は事故防止のための教育徹底を基地に要請し、「地位協定の抜本的な見直しを今後も国に求めていく」とした。

 「米兵や軍属を国内法で裁けなければ、彼らによる事件・事故はなくならない」。市民団体「米兵の犯罪を許さない岩国市民の会」の大川清代表(53)は訴える。14年までに空母艦載機が移駐すれば、米兵や家族約4千人が移り住むとされる。

 男性の遺族は12月、岩国検察審査会に再び審査を申し立てた。弁護団の足立修一弁護士(広島弁護士会)は「沖縄では地位協定で泣き寝入りした体験が意識の中に擦り込まれている。岩国でも『おかしい』という声を上げないと状況は変わらない」と指摘する。

 こうした福田氏の対応に対し、市長選への立候補を表明した他の2人は地位協定への批判を強める。

 元職井原勝介氏(61)は「法的な地位を平等にしない限り、日米関係に悪影響」とし、根本的な解決を国に要望するとの意向を示す。

 新人の吉岡光則氏(65)は「米軍の特権を保護する取り決め」と批判。「個別の問題から国に言うべきことは言う」としている。(酒井亨)

日米地位協定
 日米安保条約に基づき1960年発効。米軍の法的地位や基地の管理、運用などを定める。裁判権が日米で競合する場合、米軍人や軍属の公務中の事件・事故については、米軍当局に第1次裁判権があると規定。米側が裁判権を放棄するか、公務外の場合は日本に行使する権利がある。
 軍属 軍人ではなく軍隊に所属する文官、技師などの総称。岩国基地報道部によると、同基地には約300人いる。

(2012年1月13日朝刊掲載)

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