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連載・特集

3・11としまね <中> もう一つの家族

 1月下旬、邑南町市木の農業石橋由岐子さん(65)宅に段ボール箱が届いた。福島県いわき市の主婦田仲麻美さん(33)と関根真寿美さん(36)が送った地酒と手紙。「しまねのおばちゃんへ。また行きます」。便箋には田仲さんの長女由来(ゆら)ちゃん(7)、次女蒼代(そよ)ちゃん(3)の字が躍っていた。

 県は昨年7、8月、福島県内の親子を対象に農家民泊での短期受け入れを企画した。交通費を1人6万円まで助成。19家族59人を受け入れた。

 邑南町には最多の7家族22人が滞在。田仲さん、関根さんの両家族計6人は8月、6泊7日の半分を石橋さん宅で過ごした。里山を駆け回り、牛の餌やりや花火も楽しんで娘に笑顔が戻った。「新しい家族ができた思いです」と田仲さん。

 田仲さんは海から700メートルの自宅前まで津波が迫った。市外へ1週間避難。50キロ先の福島第1原発からの放射線が心配で、帰宅後は娘を外で遊ばせないようにした。娘も余震で敏感に反応するようになり「子どもも親も限界だった」。

 過疎化が進む中山間地の市木地区。集落には、久々に子どもの声が響いた。石橋さんは「福島に娘ができたよう。逆に元気をもらいました」と喜ぶ。

 ことし1月には、石橋さんたち島根の受け入れ側8家族11人が福島県を訪問。県も第2弾として春休みの受け入れ募集を始め、田仲さん、関根さんも応募。地域の交流は着実に根付き始めている。

 県しまね暮らし推進室によると、東日本大震災を機に県内には短期滞在のほか、4都県の141人が居住。住民票を移さず県内の親類宅へ身を寄せるケースもあり、同室は「実際はもっと多くの人が移住している」とみる。

 人口減少に歯止めをかけるため、定住対策に力を入れている県や市町村は1世帯に30万~10万円の生活支援金を支給。公営住宅などをあっせんして生活を支援している。しかし、中山間地では働く場が限られ、住まいに適した空き家が少ない。定住につなげるための課題も残る。(黒田健太郎)

(2012年3月10日朝刊掲載)

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