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連載・特集

3・11としまね <下> 汚染稲わら

 飯南町の頓原肥育センター。約220トンの堆肥が厳重にビニールで梱包(こんぽう)され、倉庫に高さ2メートルまで積み上げられていた。15キロずつポリ袋に小分けする作業を昨年10月に始め、今月8日に完了した。

 福島第1原発事故の影響で、放射性セシウムに汚染された宮城県産の稲わらが県産肉牛に与えられた問題。被害は稲わらを食べた牛のふんで作る堆肥に飛び火した。同センターの堆肥からは昨年8月、国の暫定基準値(1キロ当たり400ベクレル)を上回る1キロ当たり1082・7ベクレルのセシウムが検出された。

 「堆肥を封じ込めただけ。早く処分したいが、住民理解が得られない」。同センターを運営するJA雲南の糸原裕朋常務は苦渋の表情を浮かべた。

 JA雲南は雲南市、奥出雲町、飯南町の4施設で、汚染の可能性が高い堆肥約500トンを保管している。国は焼却か埋め立てを指示。糸原常務はこれまで、施設周辺の自治会で説明会を約20回開き、4施設周辺での処分受け入れを求めてきた。しかし「処分に伴う農作物のイメージダウンを心配する声に、返す言葉がなかった」とうなだれた。

 実際に県内農家は昨年7月末、深刻な風評被害を受けた。汚染稲わら問題が発覚し、大阪市場で県産牛肉価格が市場平均より約4割下落したのだ。県は同8月3日に大田市の県食肉公社で全頭検査を始め、2852頭(今月2日現在)の安全を確認した。

 県農畜産振興課は「セシウムは不検出ばかりで、県産牛肉の市場価格も回復してきた」と強調する。ただ、当面は全頭検査を続ける。同課は「消費者に安心してもらうために打ち切ることはできない」と説明する。

 今回の問題を受け県は2012年度、飼料用稲わらの収集機械を導入した農家に、最大100万円を助成する制度を始める。県産稲わらを確保し、コメ、稲わら、肉牛、堆肥の循環を県内で加速させる狙いだ。

 農業生産法人ライスフィールド(松江市)の吉岡雅裕社長は今秋、飼料用稲わらを前年の5倍に当たる250トン集める予定だ。「県内の肥育農家に出荷し、地域で食の安全を守りたい」。信頼回復に向けた取り組みは続く。(川上裕)

(2012年3月12日朝刊掲載)

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