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連載・特集

3・11としまね <上> 地域の防災

 まもなく東日本大震災から1年。津波被害に加え福島第1原発事故は、同様に原発を抱える県の防災体制を根幹から揺るがした。広域的な放射性物質の拡散が農畜産業に被害を与えた一方、被災地との交流は加速した。震災を契機とした県内の変化を追った。

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の南東約25キロ、安来市役所の一室。東日本大震災に伴う福島第1原発事故後、新たに原子力防災を担った危機管理室がある。「住民の安全な避難にはハードルが多い」。松本城太郎室長は3月上旬、原発30キロ圏の地図を広げながら漏らした。

 避難時の1次集合場所やルート、移動手段…。同市が今取り組む原発30キロ圏3万6千人の避難計画に、課題は山積する。「地区丸ごとの避難など考えたこともなかった」と松本室長。県から2月、鳥取、岡山県の16市町村へ避難する大枠を示されたが、前段階となる市内の計画作りに頭を悩ませる。

 福島の事故を受け、政府は原発周辺の防災対策重点地域を8~10キロから30キロに拡大する見通し。島根原発周辺では松江市に加え出雲、雲南、安来の4市の約39万6千人の避難計画作りが喫緊の課題に浮上した。

 県は、体育館など県内の避難施設の収容人数が十数万人分にとどまるとして広島、岡山、鳥取の3県にも受け入れを要請している。

 放射線監視地点の拡大などハード面の防災態勢は一定の進展をみせる。ただ、避難で渋滞が発生し、多数の住民が逃げ遅れた福島のケースをみても「どこに、どの道を通り、何を使って逃げるか。地域に即した計画をいかに示せるか」(大国羊一危機管理監)が、最大の難題となっている。

 苦悩する行政に対し、住民による自主防災の動きが出始めた。島根原発の南西約3キロの松江市鹿島町古浦地区(320世帯、千人)は昨年11月、災害発生時に自力での避難が困難な住民を把握するため、全世帯にアンケートを実施した。

 年内には避難訓練も計画する。自治会長の亀城幸平さん(61)は「行政の助けはすぐには期待できない。隣近所が身を守るすべを共有したい」と強調した。

 原発の立地リスクと向き合う県と4市。住民主体の防災活動を施策と連動させながら、住民に現実的な避難計画を立案、提示することが求められている。(樋口浩二)

(2012年3月9日朝刊掲載)

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