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連載・特集

島根原発38年 <下> 思惑

「廃炉やむなし」地元の声

中電や経済界 3号稼働期待

 「60年運転しても問題ない」。中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の岩崎昭正発電所長は3月中旬、出席を求められた島根県議会の総務委員会で強調した。

 運転開始から丸38年を迎えた島根原発1号機の老朽化がテーマの一つだった。安全性をただした委員に対し、岩崎所長は「最新の知見に基づき劣化を把握し、機器を取り換えている」と、再稼働への理解を求めた。

 しかし、国は福島第1原発事故の原因究明を待たず、原発の運転期間を「原則40年」とする方針。1号機の再稼働に欠かせない「地元同意」を中電に示すかどうか判断する島根県と松江市の両首長も、この方針に一定の理解を示す。

 「老朽化した原発をいつまでも動かすのは問題」と、松江市の松浦正敬市長。溝口善兵衛知事も「どこかで線を引くのは一つの考え」とのスタンスだ。

 また溝口知事が、稼働の判断を仰ぐ場として強調する県議会でも「1号機の稼働はハードルが高い」との見方が大勢を占める。

 一方、あるベテラン県議は「日本の原発は確実に減る。島根(で減らす)なら1号機だ」と廃炉の可能性を見据えた上で「最新で出力も大きい3号機を中電は是が非でも動かしたいはず」とみる。

高出力が可能

 ほぼ完成した3号機の出力は、137万キロワットと1号機(46万キロワット)の約3倍にも達する。「稼働すれば、電力供給の余裕が生まれる」(中電)だけに、「地元の了解を得て2012年度中に動かしたい」(同社幹部)との声も漏れる。

 全国でも稼働が北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)だけとなる中、地元経済界にも「これ以上電気代が上がれば、日本のものづくりは成り立たない」(島根経済同友会の宮脇和秀代表幹事)と、早期稼働を望む声が出ている。

住民不安募る

 しかし、中電や立地自治体の思惑とは無関係に、島根原発に対する地元住民の不安は広がっている。

 「この星が永らえるために、原子力以外の方法で電力の開発を頑張ってもらえないでしょうか」

 県が3月中旬、松江市で開いた島根原発の周辺環境安全対策協議会。1996年から委員を務める森脇良子さん(73)=同市鹿島町=は、初めて「脱原発」を中電に訴えた。

 自宅からわずか2キロに位置する原発と38年間共存してきた。「地域が潤った部分もある」と、これまで口をつぐんできたが「福島であれだけの事故が起きた。子や孫を思うと、言わずにはおれんかった」と明かす。

 中電、首長、経済界…。早期再稼働や廃炉などそれぞれの思惑や主張が渦巻く一方で、地元住民の不安は確実に高まっている。県と市の稼働の判断には、そうした住民の声に十分に耳を傾けることが求められる。(樋口浩二)

(2012年4月2日朝刊掲載)

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