×

ニュース

原爆症認定 新基準を決定 「被爆者の救済」明記 厚労省、来月適用 被団協や原告反発 対象拡大など求める

■記者 道面雅量

 原爆症認定の基準見直しで、厚生労働省の「原子爆弾被爆者医療分科会」(会長・佐々木康人国際医療福祉大放射線医学センター長、19人)は17日、認定条件を大幅に緩和した新基準を決定した。2月25日に厚労省が示した最終案に、「被爆者救済の立場に立つ」との理念を追記した。4月から新基準で審査を始める。

 一方、日本被団協や原爆症認定集団訴訟の原告・弁護団は「抜本的改革とはいえず、容認できない」とし、対象になる病気の拡大などを引き続き求める考えを示した。

 追記された理念は、「被爆者援護法の精神にのっとり、より被爆者救済の立場に立ち、被爆の実態に一層即したものとする」との文言。原告側の要望を受け、与党プロジェクトチームが厚労省に働き掛けていた。これまでの基準の柱である、被爆者が浴びた推定放射線量をよりどころにした「原因確率」を改めることも明記した。

 具体的な基準は最終案通りで、爆心から約3.5キロ以内で被爆など一定の条件を満たせば積極的に認定▽対象となる病気は、がん、白血病など5つ▽条件に当てはまらない場合も個別に審査し、総合的に判定する―との内容。医療分科会の下に病気の種類で分けた4つの部会を設け、分業で審査を早める。

 厚労省は、新基準で現在の約10倍に当たる年間1800が認定されると見込む。佐々木会長は「審査を積み上げていく中で、見直したり組み入れたりすべき項目があれば、分科会で議論する」とも強調した。

 一方、被団協の田中煕巳事務局長は分科会終了後の会見で、追記された理念について「『疑わしきは認定』が欠落し、不十分」とし、肝機能障害などが積極認定の対象外であることも批判。全国弁護団の宮原哲朗事務局長も「この基準ではこれまでの判決ともかなり矛盾する。裁判の行方は不透明」と不満をあらわにした。

≪厚労省新基準と原告側主張の相違点≫

【審査の理念】
厚労省…被爆者援護法の精神にのっとり、より被爆者救済の立場に立つ
原告側…従来の認定行政を反省し、「疑わしきは認定」を明確にする

【積極認定の範囲】
厚労省…爆心から3.5キロ以内で被爆するか、2キロ以内に100時間以内に入市、または2週間以内に1週間滞在
原告側…少なくとも、がん、白血病は時間、距離の制限なし

【積極認定する病気】
厚労省…がん、白血病、副甲状腺機能亢進(こうしん)症、放射線白内障、心筋梗塞(こうそく)
原告側…甲状腺機能低下症、肝機能障害なども加える

【医療分科会の改革】
厚労省…4部会を設けて審査を迅速化
原告側…委員の入れ替えなど抜本改革

認定増を期待  官房長官
 町村信孝官房長官は17日の記者会見で、厚生労働省が4月1日から運用する原爆症認定の新たな基準が決まったことについて、「認定者が来年度は一挙に10倍ぐらいになると見込んでいる。多くの方々が救済されるよう期待している」と述べた。
 一方で、新基準に原爆症認定集団訴訟の原告団や日本被団協が「容認できない」と不満を示し、訴訟解決の見通しは立っていない。政府の対応について町村氏は「新基準をどこまで理解いただけるかということでは」と述べるにとどまった。

年別アーカイブ