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連載・特集

『生きて』 広島女学院理事長 黒瀬真一郎さん <10> 学び

出会い・教育も小さな種

 「本を読め、友と交われ、汗をかけ」が教育のモットーだ

 私は英語教員として生徒たちと碑巡りをし、「国際高校生サミット」を通して、体験に基づく学びの大切さを知りました。昨今は、ゆとり教育の反動で教科書が分厚くなり、それをこなすために文化祭などの行事を削る学校もあると聞きます。でも人生の基礎づくりは小中高の時期にある。生徒同士で刺激し合ったり、衝突したりしながら、達成感と感動を味わってもらいたい。その時しかできない体験のほとんどをスキップして、受験勉強だけに費やすのはもったいないと思うのです。

 私は子どもと接することができる教員の道を選びました。理想とする先生に出会えたのも幸せでした。

 授業を持てなくなった校長時代の8年間、毎朝、校門に立って生徒にあいさつをしました。最初はわざと遠回りして門をくぐったり、目を合わせようとしなかったり。そんな生徒もやがて、小さな声で返してくれるようになりました。教員がいろんな種をまかないと始まりません。ここでも「働き掛けて待つ」という教育の原点を確かめました。

 聖書に「地の塩、世の光」という言葉があります。塩の優れた特性を捉えて、社会に役立つ役割を指します。塩は、梅を漬ける時には保存料となり、ぜんざいに入れると甘みを引き立てる。甘い言葉ばかりでは人は育たない。ぴりっとした辛い言葉も必要です。生徒が迷っている時には光となって導くのも教員の役目なのです。

 一つ一つの出会いも小さな種である

 出会いは先へ導く分岐点のような気がします。「し続けること」の大切さを教えてくれた河本一郎さんや日野原重明先生、終戦後の引き揚げ時に生きるか死ぬかの体験をした妻禎子の存在は大きかった。自然と心を動かされたり、心に引っ掛かったりする出会いにはきっと意味があります。これからも出会いに学び、感謝し、できることを謙虚に続けたいと思います。=おわり(この連載は整理部・里田明美が担当しました)

(2012年5月2日朝刊掲載)

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