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連載・特集

小頭症支援 全国で格差 解消へ国の体制強化を

 放射線の影響で生まれながらに障害のある原爆小頭症患者をどう支えるか―。広島市が専任の相談員1人を配置して1年余り、10人の患者に対し、きめ細かく対応している。しかし広島市以外にいる患者12人が受けている行政の支援は、十分とは言い難い。面倒を見ていた親が相次いで亡くなり、患者も66歳になった。地域格差を解消するため、国による支援体制の強化が急がれる。(増田咲子)

 広島市が、国の補助を受け、相談員として医療ソーシャルワーカーを配置したのは昨年4月。患者や家族、支援者でつくるきのこ会が2010年7月、国の責任で相談員を置くよう、市や広島県に働き掛けを求めたのがきっかけとなった。

 市の相談員の河宮百合恵さん(56)は、市内の患者10人全員に年最低2回は面会。多い時は週に何度も会って、転居先選びや、患者の財産と権利を守る成年後見制度の相談にも乗っている。

 そのほか、毎日のように患者の電話を受けたり、知的障害がある患者の通院に付き添ったりして、徐々に信頼を得てきている。西区に住む患者の茶和田武亜(たけつぐ)さん(66)は「大変助かっとる」と感謝する。

患者も疑問や不満

 広島県も、広島市以外の県内の患者3人に年1回程度面会。きのこ会が5月26日に南区で開いた総会では、個別相談にも応じた。

 それでも、三次市の岸君江さん(66)は「同じ小頭症なのに、なぜ支援に違いがあるのか分からない」と疑問を投げ掛ける。「支援に地域差があり、必要なサービスが必要な所へ届いていない」と兄(66)が患者で、きのこ会の長岡義夫会長(63)=安佐南区=も強調する。

 総会では、大阪府の女性患者(66)の状況が報告された。患者が1月ごろ、きのこ会を支援する兵庫大の村上須賀子教授(医療ソーシャルワーク論)に相談の電話をかけてきた。村上教授が、府職員に患者への面会をお願いしようと厚生労働省に連絡したが、「(府の担当者が)面会しているから、患者の側から府に電話するように言われた」という。

 課題はまだある。厚労省は、患者が住む全国の自治体の担当者の名簿を作成。互いに情報交換できるネットワークをつくった。しかし広島市によると、広島、山口両県と長崎市以外の自治体から相談などの連絡は今までなかったという。

 患者が1人いる神奈川県などは文書だけで相談先などを通知。患者2人が住む大阪府の担当者は昨夏、患者や家族と面会したが、「相談に乗る際の心構えが分からない」と心もとない。

担当者の研修要請

 長岡会長は「行政は、患者からの連絡を待つのではなく、患者に寄り添い、問題解決を図ってほしい。国も、自治体任せにせず患者に面会するよう求めるなど努力して」と訴える。村上教授も「患者が全国どこでも等しく支援が受けられるよう、国はリーダーシップ発揮を」と指摘する。

 総会で、きのこ会は、支援充実を目指し、担当者を集めた研修会を開くよう国に要請することを確認した。国への要望強化を視野に、二つの広島県被団協にも連携を求める考えだ。

原爆小頭症
 妊娠初期の胎児が強い放射線を浴びると、知的・身体障害を伴って生まれる場合がある。認定患者は全国に22人いる(2011年3月末、厚生労働省まとめ)。都道府県別の患者数は、広島13人(うち広島市10人)、長崎3人(うち長崎市2人)、大阪2人、東京、山口、神奈川、福岡に各1人。

(2012年6月4日朝刊掲載)

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