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連載・特集

沖縄密約暴いた西山さん 広島で講演 秘密保全より情報公開

 40年前の沖縄返還をめぐる密約を暴き、罪に問われたのが元毎日新聞記者でジャーナリストの西山太吉さん(80)=下関市出身=だ。政府が制定を目指す「秘密保全法」に反対する広島弁護士会のシンポジウムに招かれ、広島市内で講演。「国家機密」の意味を問い掛けた。要旨は次の通り。(論説委員・岩崎誠)

 機密保全が大事なのか、それとも情報公開が大事か。いま日本は岐路に立っている。

 都合のいいものだけを出し、悪いことは隠すのが日本の官僚機構の体質だ。日米安保をめぐる密約が、まさにそれに当たる。

 1960年の安保条約改定時から密約はあった。朝鮮半島に在日米軍が事前協議なしに自由に出撃できる、と認めたのもそうだ。

 私が極秘公電を入手したのは、沖縄返還で米軍用地の原状回復補償費を日本が肩代わりする密約。今の「思いやり予算」にもつながる問題だ。さらに沖縄への核持ち込みを認める密約も結ばれた。

 だが日本の官僚は徹底して隠蔽(いんぺい)を続けた。民主党が情報公開を錦の御旗に掲げ、政権交代を果たしたのが2009年。それまで密約は一切ないと言い張った。交渉相手の米国から次々と文書が公開され、日本側も自らサインした外務省の元局長が認めたというのに。

 逆に外務省がやったのは日本で情報公開法ができる前に1200トンの外交文書を焼却したことだ。これで先進国といえるのか。

 私は密約の取材で刑事責任を追及された。しかし、うそをついた当事者たちは誰か責任を取ったか。それどころか今も民主党政権の中枢に堂々といる。

 そんな中で秘密保全法案の動きが出てきた。私はこれも日米同盟が背景にあると考えている。中国をにらんだ米国の国防戦略に即応し、秘密の保持体制についても再構築を図ろうとするものだ。

 だが、これは情報漏えいを防ぐためではない。国民に説明できないことを露見させまいと、秘密の網をかぶせるのが狙いだ。「究極の国家機密」とは何か。要するに国民に示すと猛反発をくらう都合の悪い秘密なのだ。

 そもそも外交の成果は相手国と交渉中ならともかく、結実すれば経過も含めてすべて公開すべきものだ。

 それにしても民主党政権はどうだろう。今や自民党と妥協する間柄。完全に官僚主導の日米安保体制に逆戻りした。密約解明に命運をかけると言っていたのに、その姿勢は大きく後退している。

 こんな法律の話が出てくるのも、主権者たる国民が外交や安全保障に無関心すぎたから。今の日本に求められるのは、徹底した情報公開で国民が最大限情報を得ることだ。

にしやま・たきち
 毎日新聞政治記者として沖縄返還時の密約を取材。外務省事務官に「秘密漏えいを唆した」として国家公務員法違反罪で逮捕・起訴され、一審無罪、控訴審有罪(最高裁で確定)。今も在野で執筆活動を続ける。沖縄密約情報公開訴訟の原告。著書に「沖縄密約」など。

秘密保全法
 民主党政権が準備を進める。安全保障や外交、公共秩序などに関する「特別秘密」を指定し、内部告発も含めて漏えいした公務員の罰則を強化する。報道機関の取材など情報へのアクセスが罪に問われる可能性も。日本新聞協会などが強く反対し、今国会への法案提出は見送られる見通し。

(2012年6月7日朝刊掲載)

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