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連載・特集

復興の風 1947年 原爆ドーム 廃虚の「叫び」夢中で描く

スケッチ 絵本創作の原点

 原爆投下から2度目の夏を迎えた。焼けただれ、鉄の骨が飛び出した原爆ドーム(広島市中区)。「傷だらけのドームが、何か叫んでいるようで、無性に描きたかった」。原爆ドームの廃虚に座る少女2人のうち、森本順子さん(80)はそう記憶をたどる。

 オーストラリア・シドニー在住の絵本作家。当時は15歳で、広島女学院高等女学校の4年生だった。夏の間、原爆ドームに通い50枚を超えるスケッチを描いた。

 原爆で広島市西区三篠町の自宅は倒壊した。下敷きになったが助かった。原爆ドームに吸い寄せられる半面、浮き立つような気持ちもあった。「これから良くなっていくんだ」。家や人を照らす満月の夜も空襲を恐れることもなくなった。

 大阪で中学校の美術教諭をしながら、子どもを育てた。1982年、シドニーに移住。絵本の創作を本格的に始めた。87年、日々の生活に追われて果たせぬままだった被爆体験の絵本を出版した。その後は、現地で証言活動も続けている。

 原爆ドームは62年、金網で囲まれ立ち入れなくなった。3度にわたる大規模な保存工事も受け、96年には世界遺産に登録された。

 「がれきは片づき、かつての生々しさは薄れた」と森本さん。世界に核兵器の悲惨さと平和の願いを訴えるよそ行きの姿には、寂しさをかすかに覚える。

 それでも、古里の子どもには、描き続けてほしい。「きっと叫びは、聞こえてくるはずだから」(鈴中直美)

(2012年6月29日朝刊掲載)

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