×

連載・特集

点検 山口県政 2012知事選を前に <上> 上関原発計画

フクシマ後 変化と苦悩

中電筆頭株主の責任重く

 「今年こそ上関原発を止める。一緒に頑張りましょう」。6月27日、株主総会が開かれた広島市中区の中国電力本社前。垂れ幕を掲げて座り込む山口県上関町の住民約70人にこう呼び掛ける株主の姿があった。

議決権行使せず

 総会では一部の株主から脱原発を求める意見が相次いだ。だが、3時間29分にも及んだ総会では原発建設中止などを求めた株主提案5件はいずれも退けられた。株主提案の否決に回った株主には山口県振興財団も含まれていた。

 県の外郭団体である振興財団は9・2%を保有する中電の筆頭株主。2年前までは会社提案に賛成してきたが、総会を欠席し、約3400万株分の議決権行使書を白紙提出していた。

 白紙は、規定では結果的に会社側の意向に沿う「賛成票」と同じ扱いになる。それでも二井関成知事は「株式保有と経営参画は分けて考える」とその違いにこだわりをみせる。

 「国のエネルギー政策に協力する」「地元上関町の政策選択を尊重する」。二井知事が4期16年間、ほぼ貫いてきた基本姿勢だ。だが、白紙提出など微妙な変化も表れている。

 知事は福島第1原発事故の直後には中電に事実上の工事中断を要請。株主総会の2日前には、期限切れが迫る公有水面埋め立て免許について現状では延長を認められないとの見解をあらためて表明した。

 安全確保などの徹底を求めながらも同意した2001年の電源基本計画への上関原発組み入れ。「喜んでするものではない」としつつ08年に免許交付した建設予定地の公有水面埋め立て…。それと比べると、知事の言動は脱原発への方向に向き始めたようにも映る。

 原発という「国策」への協力、大株主の責任、そして推進と反対の両派を抱える県のトップの立場…。株主総会で議決へ関与しない「棄権」まで踏み込まないのは、多様な立場のはざまで揺れる知事の苦悩とも受け止められる。

 上関町の推進派団体「上関町まちづくり連絡協議会」の古泉直紀事務局長(53)は「国の方針が決まらない中、県の対応は当然。免許交付など手続きを進めた点では町の意向をくみ取ってくれていた」と理解を示す。

 一方、上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表(57)は「県は原発建設を『国の責任』と繰り返してきた。同意した県は責任をどう考えるのか」と微妙な「追い風」を懐疑的に受け止める。

追及や提言増加

 全国をみると、踏み込んで「もの申す」自治体は確実に増えている。電力会社の株主総会では、大阪市や東京都の幹部が経営陣を追及。関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働問題では4月、福井県に隣接する京都府と滋賀県知事が脱原発に向けた工程表の提示などの共同提言を国に提出した。

 財団は清算され、中電株は今夏にも県に戻る。浮上から30年を超す上関原発計画。その将来を左右する新しい知事の判断にかつてない注目が集まる。(久保田剛)

    ◇

 山口県知事選が12日告示、29日に投開票される。福島原発事故で揺れる中電の上関原発計画や空母艦載機移転が予定される米海兵隊岩国基地問題、止まらない人口減…。16年ぶりに決まる新たなリーダーが直面する重要課題を追う。

(2012年7月5日朝刊掲載)

年別アーカイブ