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連載・特集

ベトナム 枯れ葉剤半世紀 第3部 解決への道 <1> 汚染除去

本格作業やっと着手

広い散布地 国際支援が鍵

 ベトナム戦争中の1961年に米軍が猛毒ダイオキシンを含む枯れ葉剤をまいてから半世紀を経た今夏、ベトナムと米国はようやく汚染除去を本格化させる。一方、枯れ葉剤や旧日本軍も使った毒ガスなど化学兵器をめぐる被害者の救済と環境回復、廃絶への道は長い。科学的研究の蓄積や草の根支援を踏まえ、解決の糸口を探る。(教蓮孝匡)

 ホットスポットの一つ、ベトナム中部のダナン国際空港。8月、全国に先駆けてダイオキシンの本格除去に乗りだす。米国側が資金を出し、ベトナム国防省が実務を担う合同事業。2013年中の完了を目指す。だが、国内28カ所全ての除去には、最短でも20年はかかるとされる。

 「ようやく研究から実践に移る」。全国の処理事業を束ねるベトナム天然資源環境省のグエン・ミー・ハンさんは、ハノイの事務所で力を込める。

「責任問うべき」

 ベトナムの汚染地の大地は戦後、放置されてきた。残留ダイオキシンの測定や高熱処理には資金と高い技術がいる。そこに注ぐ国の余力はなかった。

 2000年、クリントン米大統領(当時)が、現職大統領として初めてハノイを訪問。両国による汚染対策が動きだす。06年から、米フォード財団などが提供した民間資金を活用。ダナンなどの土壌を調べ、汚染箇所や汚染濃度を特定した。

 昨年6月には、ダナン国際空港で不発弾と地雷除去、汚染土の掘り起こしに着手。一部で化学薬品を使ったダイオキシン分解が始まっている。今年8月以降、汚染土を700~800度で高熱処理する作業が始まる。

 米側が負担する処理費用はダナンだけで約3200万ドル(約25億円)。全土となれば、膨大な額となる。

 ただ、汚染の除去はあくまでも米側の「人道的」措置だ。化学兵器禁止条約で枯れ葉剤は、使った側に処理を義務付けた「遺棄化学兵器」に当たらないとされているからだ。

 枯れ葉剤被害者協会(VAVA)科学局のチャン・ゴック・タム副代表(59)は「どんな方法でも、現状の改善が大事」とする。米国に対し「正面から責任問題を問い続けるべきだ」と付け加えた。

日本の技術期待

 ベトナム政府は、中部のフーカット空港、南部のビエンホア空港の2カ所もホットスポットとして公表。15年中の除染を目指す。

 ビエンホア空港近くの公園の池端。「釣り禁止」と書かれた赤い看板が立つ。08年からの水質調査でダイオキシンが検出された。土壌からも環境基準の約200倍を検出。現在、処理計画の作成が進んでいるという。

 VAVAドンナイ支部のグエン・ティ・ゴック・ハン副会長は「毒物と隣り合わせの住民の不安は強い」と早期処理を求める。資金の当てはない。そもそも広大な枯れ葉剤の散布地域は、除染どころか実態調査の予定さえない。

 ベトナムの汚染地対策に関し日本では、研究者間の交流や共同研究が続いてきた。

 愛媛大は、独自開発した土壌中のダイオキシンの簡易測定技術をベトナムでの調査に生かせるよう、現地の研究機関と連携を図る。実現すれば、安価かつ短時間に調査でき、全国調査への扉も開く。

 今夏にも測定機器を現地に運ぶ農学部の本田克久教授(61)は「日本の技術が、ベトナムの問題解決に貢献できれば」と願う。すでに現地の技術者を招き、研修を重ねてきた。

 戦後37年で汚染除去が加速するベトナム。今こそ、国際社会の支援が求められている。

(2012年7月18日朝刊掲載)

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