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連載・特集

『生きて』 漫画「はだしのゲン」の作者 中沢啓治さん <13> 「ゲン」の長い旅

10年超す苦労の末 完結

 1974年末、週刊少年ジャンプに連載していた「はだしのゲン」を中断した

 オイルショックで紙不足が起きてね、ページ数を削らないと1冊の本にならなくなった。その中で「中沢啓治、何回休め」と休載を言われるわけよ。ストーリーが盛り上がってるところなのに気が抜けてしまう。「そんなもんか」と。休みじゃ何じゃと変則的になるのが嫌だった。

 それに、週刊誌はものすごいスケジュールがハードでね。毎週のサイクルで、締め切りに追われてきつかった。でも、アシスタントを大勢抱えたり、原作と絵を描くのを分けたりしてやりたくない。月刊誌のサイクルでやれれば、と思っていた。

 75年9月から別の月刊誌で連載を再開した

 ジャンプの連載をやめて半年くらいしたころ、朝日新聞の記者が来て「ゲン」を読ませてくれ、って。そのまま、ずっと追っかけてきて続編があるならやらないかって、「市民」っていう月刊誌を紹介してくれた。でも1年で廃刊。「原稿料払えません」ってパア。もう散々よ。まあ蓄えはあったけど。次の月刊誌を探せばいい、何とかなるよ、って思っていた。僕は楽天的だから。それに、連載が中断していても構想はどんどん頭の中を駆け巡るから、仕事してるのと同じよ。

 その後、「文化評論」っていう月刊誌で77年7月から3年半。また「原稿料が払えない」って言われて。82年4月からは「教育評論」で3年半やり、10年以上かかってやっと完結させた。

 単行本の出版でも苦労した

 週刊少年ジャンプで連載していたのに、集英社が単行本にしないのはなぜか。社名が残るからいかん、って。雑誌だと「読み捨て」で消えていく。「わが社が出した作品じゃないんだ」というものの考え方をしている。上層部がそうなんだよ。

 同じ週刊少年ジャンプで連載した「オキナワ」なんて、輪転機が回れば単行本として出るところだったのに、上からストップがかかった。「集英社の名が残る」って。何を恐れとるんかね、言論抑圧ですよ。

 結局「ゲン」の単行本は、知り合いを通じて別の出版社から出した。

(2012年7月24日朝刊掲載)

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