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連載・特集

揺らぐ核の火 第2部 ヒロシマの足元 <2> 知の現場は

「タブーあってはならない」

平和利用 問い直す

 原発の是非についてメリットやデメリットを検討し、自分の考えを述べなさい―。広島大東千田キャンパス(広島市中区)で23日にあった教養科目「ヒロシマ発平和学」の期末試験。履修登録した約70人が論述問題に取り組んだ。

 講義を担当したのは同大平和科学研究センターの川野徳幸准教授(原爆・被ばく研究)。4月から計14回の講義では、被爆の実態や核兵器廃絶への課題などのほか、世界の核被害も積極的に取り上げた。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(ウクライナ)、セミパラチンスク核実験場(カザフスタン)、そして福島第1原発事故。

 特にフクシマは計5回の講義で触れた。全村避難となった福島県飯舘村の映像を見るなどし、被災者に何が必要かを考えた。

 受講した法学部1年の草野玲央奈さん(24)=東広島市=は大阪市出身。今まで考えたこともなかった福島の被災者と被爆者の共通点に思いを巡らした。「未知である怖さは体験した人にしか分からない。67年前の原爆を身近に考えられた」

 経済学部1年の大田知央也(ともや)さん(20)=同=は原発は即時廃止するべきだと考えていた。受講後、「社会や経済への影響は大きい。もっと議論を深めて結論を出した方が良いと思うようになった」と言う。

 核と人間との関係に見直しを迫ったフクシマ。人類史上初めての核被害を受けた広島から発信する平和学はどうあるべきか。核の平和利用を問い直す新たな模索が「知の現場」で始まっている。

 原発の是非に国民の意見は割れる。政治的な思惑も交錯する。「学問の場にタブーがあってはならない。ましてこれから社会に出て国を背負うのは彼ら。原発のありようを問うのは当然だ」。川野准教授は強調する。

 また同大は10月、大学院博士課程に「放射線災害復興を推進するフェニックスリーダー育成プログラム」を開設する。原発事故などの災害の復興に貢献できる研究者や実務家を育てる。

 広島市立大(安佐南区)と広島平和文化センター(中区)が連携して開く連続講座「ヒロシマ・ピースフォーラム」。同大の講義の一環として10年前に始まり、ことしは学生と受講生の計112人が5~7月に学んだ。

 「原発と原爆を合わせて考えたい」「核戦争にも原発問題にも危機感を持つことが大事だ」。グループ討議では10班のうち6班が、学びたいことや世界の平和の課題にフクシマやエネルギー問題を挙げた。

 「被爆地広島は核兵器だけでなく、原発とも向き合わなければならなくなった」。講座のコーディネーターを務めた同大広島平和研究所の水本和実副所長(国際政治・国際関係論)はそんな思いを強める。(藤村潤平)

(2012年7月31日朝刊掲載)

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