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連載・特集

被爆67年 祈り継ぐ 8・6ドキュメント

何が起きたのか、孫に伝えたい

 広島原爆の日の6日、惨禍に巻き込まれた人々の冥福や平和への祈りが広島市や周辺で続いた。あの日から67年。被爆者の高齢化が進む中、体験の継承や核兵器の廃絶を目指すイベントも繰り広げられた。

ツイッターで発信/英語で紙芝居

「フクシマ繰り返さぬ」集会

  0・00 被爆2世の大学講師藤村龍至さん(35)=東京=は、初めて原爆の日に慰霊碑と向き合った。父瞬一さん(83)を含め、被爆者に高齢化の波が押し寄せる。「被爆体験をどう語り継いでいくか、考えさせられた」

  0・40 原爆ドーム前、盛岡市の小学校教諭竹内良子さん(45)が長女の中学2年菜緒さん(14)に「東北も立ち上がろう」。岩手県にあった良子さんの実家は、東日本大震災の津波で全壊。被災地の未来を、復興した広島と重ね合わせた。

  2・10 「3歳の弟は家の下敷きになり、声がだんだん聞こえなくなった」。大阪府高槻市の横路靖夫さん(81)は、原爆ドーム前で「命ある限り、伝え続ける」と若者に被爆体験を語り継いだ。

  3・20 被爆者の中島照子さん(85)=南区=は今でも「あの日」を忘れられない。「家の下で助けを求める声に、応えられなかった」。慰霊碑の前で静かに手を合わせた。

  4・35 「母のもう一つの命日と思って祈った」。被爆2世で安佐北区の会社役員野田オタキさん(55)は、3年前に被爆者の母をみとった。慰霊碑に向き合い、二度と戦争を起こさないと誓った。

  5・30 昭和高(呉市)放送・文芸部の1年生3人が、カメラを手に平和記念公園を歩いた。「お年寄りから子どもまで、祈りの気持ちに満ちていた」。岡田光政さん(15)=呉市=は心を揺さぶられた。

  5・50 平和記念式典に向け、広島市職員が慰霊碑の前に置かれた花束や千羽鶴を移し、地面を掃き清めた。準備が急ピッチで進む。

  6・00 原爆ドームに、安佐南区の私立学校教諭浅原宏志さん(55)と次男の小学5年大樹君(11)が到着。自宅から3時間かけて歩いてきた。「自分の目で、足で、当時の様子を感じてほしい」。宏志さんの思いを、大樹君が受け止めた。

  7・00 ハンドサイクル(手こぎ自転車)のプロ永野明さん(37)=北九州市=が、平和記念公園を出発した。9日に長崎市へ到着し、二つの被爆地をつなぐ計画だ。

  8・15 被爆2世の会社員高野正太郎さん(63)=南区=は、孫の小学3年谷村翼君(8)=埼玉県ふじみ野市=を初めて平和記念公園に誘った。ことし6月に被爆者の母が死去。「広島で何が起きたのか、孫に伝えないといけない」。敬遠していたヒロシマと向き合う覚悟が芽生えた。

  8・20 脱原発と核兵器廃絶を訴えるデモ隊が原爆ドーム前を出発。参加者は「再稼働反対」「原発いらない」と声をからした。

  9・00 被爆者で呉市の米田稔さん(71)は初めて、平和記念式典会場に入らなかった。体調を崩し、日光を長時間浴びることに不安を感じた。木陰から「原爆は二度とあってほしくない」と声を詰まらせた。

 11・00 「外国人もたくさん来ています。目の前ではデモです」。明治大3年山村知紀さん(21)=東京=は短文投稿サイトのツイッターで、原爆ドーム周辺の様子をリアルタイムにつぶやいた。

 12・05 この日の中区の最高気温33・8度を観測。平年を0・8度上回り、ことしも暑い一日となった。

 12・25 英スコットランドの海洋生物学者カレン・ファーロンさん(40)は「原発ダメ」と書いた和傘に着物姿で平和の池周辺を練り歩く。全国を回る旅の終着点に選んだヒロシマで「核兵器だけではなく、原発も危ない」と力を込めた。

 13・50 放射能汚染を心配し、福島市から札幌市に移住した市民団体代表世話人の中手聖一さん(51)が、中区の集会で講演。「フクシマを繰り返さない社会をつくるのが脱原発。まずは再稼働を止めよう」と約200人に呼び掛けた。

 15・15 原爆の子の像のそばで、府中緑ケ丘中(府中町)の演劇部員が英語で紙芝居を上演した。佐々木禎子さんの生涯を描き、部長の3年田中樹音さん(15)は「帰国したら、多くの人にこのエピソードを伝えてほしい」と願う。

 17・15 原爆資料館から出てきた、川崎市の主婦斎藤智江さん(37)の長女で小学1年百華さん(7)。「黒い雨や、8時15分で止まった時計が怖かった」。館内で泣きながら原爆の悲惨さを記憶に焼き付けた。

 18・30 約5千個のキャンドルが、夕闇の原爆ドームを取り囲んだ。パート従業員竹下千代子さん(41)=安佐南区=の長女で小学4年凜ちゃん(9)は「平和」を記したキャンドルを見つめた。

 19・20 元安川に、原爆犠牲者への鎮魂と平和への願いを込めた6色の灯籠が放たれた。中区の小学6年谷本萌々香さん(11)は「世界が平和になるように」と願った。(村田拓也、山本堅太郎、根石大輔、神下慶吾、松尾直明)

(2012年8月7日朝刊掲載)

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