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原発ゼロの衝撃 中国地方に見る <中> 島根

3号機容認で矛盾鮮明

「なし崩し稼働」懸念の声

 真新しいコンクリートの壁に囲まれた部屋から、ぽっかりと大きく開いた「穴」が見えた。建設中の中国電力島根原発3号機(松江市鹿島町)に設けられた見学ルーム。穴の直径は7・1メートル。核分裂反応を制御し、発電を担う原子炉だ。

 3号機では8月下旬、原子炉内部の制御棒駆動機構の検査を終えた。原子炉建物はほぼ完成し、核燃料を挿入し、試運転を経て稼働できる態勢となっている。

 中電にとって、3号機の運転開始は「社運をかけた事業」(同社幹部)だ。福島第1原発の事故で、当初2012年3月を見込んでいた稼働時期は白紙になった。

 政府は新たにまとめたエネルギー戦略で「原発の新増設は認めない」と明記した。しかし、枝野幸男経済産業相は15日、国は設置許可を出した原発の建設を容認すると表明。政府が掲げる「2030年代の原発ゼロ」と矛盾する形で、3号機の稼働にゴーサインを出した。

 3号機の建設容認は15日、経済産業省から地元に伝えられ、島根県の溝口善兵衛知事は「安全確認を原子力規制委員会でしっかり対応してほしい」とコメント。松江市の松浦正敬市長も「地域に果たす役割は大きい」と、稼働を受け入れる姿勢を示している。

 「1号機を『人質』にしてでも3号機を動かしたいのが本音」。島根県議会のベテラン議員は中電の思惑をこうみる。3号機の出力は137万3千キロワットと1号機(46万キロワット)の約3倍。「3号機が動けば1号機の再稼働にはこだわらないはずだ」

 政府は、同時に「40年廃炉」を厳格運用する方針も示した。1号機は1974年3月の運転開始から38年半を経過し、寿命の40年まであと1年半。島根原発増設反対運動(松江市)の芦原康江代表は「福島第1原発と同じ型。リスクを考えれば再稼働はあり得ない」とする。

 新設の3号機を稼働させれば「運転期間40年の厳守」に照らしても、2050年代まで運転が可能になる。「30年代の原発ゼロ方針と矛盾する」と島根原発近くの同市鹿島町の中村栄治さん(76)。「なし崩し的に動かされるのが一番怖い」と困惑する。

 同じく鹿島町の主婦森脇良子さん(74)は「原発で事故が起きれば、住民が安全に避難できる方法はない。原発以外のエネルギー利用を考えるしかない」と訴える。

 宙に浮いていた3号機の取り扱いについて政府の考えが初めて示され、原発ゼロの目標との矛盾も鮮明になった。これから稼働について島根県と松江市は判断を求められる。森脇さんは「原発と向き合って暮らしていく住民の思いをしっかりくみ取ってほしい」と注文した。(樋口浩二)

島根原発3号機
 2005年12月に着工。工事進捗(しんちょく)率は最新の公表数値(11年4月末時点)で93・6%。改良沸騰水型の原子炉で出力は137万3千キロワット。総工費は約4600億円に上る。沸騰水型の1号機(出力46万キロワット)、2号機(同82万キロワット)に比べ発電効率に優れる。中電は営業運転開始を目指し、安全評価(ストレステスト)の2次評価を国に提出する方針だが時期は未定。

(2012年9月17日朝刊掲載)

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