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連載・特集

原発ゼロの衝撃 中国地方に見る <下> 中国電力

推進維持で政府と対立

上関の「着地点」焦点に

 政府が新たなエネルギー戦略で「原発ゼロ」目標を決めた後も、中国電力は原発推進の旗を降ろしていない。国策を後ろ盾に原発を推進してきた電力会社は一転、政府と対立する立場となった。

 「いまさら原発計画を変えられるわけがない。本音では厳しいと思っても、いろいろ事情がある」。中電の元役員は同社が置かれた状態を説明する。

 原発ゼロにより、化石燃料の輸入増と自然エネルギーの急拡大で電気料金が上がる。産業や雇用に深刻な影響が及ぶ―。中電は、これらを原発拡大が必要な理由に挙げる。

 「それだけではない」。現役のある役員は、計画浮上から30年がたつ上関原発(山口県上関町)で、町と中電の深い関係があると力を込める。「建設を長い間、お願いしてきた。地元から雇用の場を求める声も強い。地元の声に反する形で、撤回などできない」

 加えて上関原発計画は、着工に最も近い新規立地として電力業界が注視する。業界から注がれる視線も「簡単にやめられない」(元役員)背景にある。

 ただ、中電は水面下で「死守ライン」を、上関原発から島根原発(松江市)3号機の稼働にシフトしているとの見方もある。出力137万3千キロワットと国内最大級の3号機が稼働すれば、電力供給は当面安定するからだ。

 苅田知英社長は昨年、国が原発の新規立地を認めない場合、「従わざるを得ない」と発言。現実となった今、上関原発の「着地点」を探る中電の動きは次の焦点となる。

 光熱費の上昇、産業空洞化の加速…。政府の新戦略が決まった14日、中電が発表したコメントには、「原発ゼロ」への懸念が列挙されていた。苅田社長名で出した文書には、政府への強い反発がにじんだ。

 「中電と国の方針が異なったままでは、これから何も進まない」。エネルギー基本計画の見直しを審議した、国の基本問題委員会の委員の一人はこう嘆く。

 政府の原発ゼロ方針の下、まず中電には、原子力比率(出力ベース)を現在の8%から、他電力平均(20%)以上の30%近くまで上げるとしてきた計画を、描き直すことが迫られる。だが中電には「政権が変われば、エネ戦略が見直されるかもしれない」(中電幹部)との思惑も透ける。政府と「にらみ合い」を続け、具体策が進まない可能性もある。

 広島修道大の森嶋彰名誉教授は「中電は、地域住民の多くが原発のリスクがない社会を求めている現実を受け止め、長期計画を練り直すべきだ」と強調。原発比率が低い中電こそ、自然エネルギーを生かした新たな電源構成に「スムーズに移行できる」と訴える。(東海右佐衛門直柄)

(2012年9月18日朝刊掲載)

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