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連載・特集

らしく暮らす デンマークの環境 ロラン島の挑戦 <上> 

 広島県生活協同組合連合会主催の視察に同行し、秋深まるスウェーデンとデンマークを訪れた。両国とも消費税25%。国民の税負担は大きい一方、その人らしく生きることを社会で支える精神が根付いていた。人や環境を大切にした暮らしを目指す北欧の試みを報告する。

原発から転換 官民後押し

 シュン、シュン…。高さ約40メートルの風車の下に立つと、羽根が風を切る音が振動とともに伝わってくる。デンマークの東南にあるロラン島。庄原市とほぼ同じ1240平方キロ余りに、290基もの風車が立つ風力発電の島だ。

 島を囲む海にも洋上風力発電パークが建設され、173基の大型風車が潮風を受ける。

 「この島では、島の6万5千人が使う電力の6倍を風力でつくりだし、周辺の地域や国外へも輸出している」とロラン市の市議レオ・クリステンセンさん(59)は胸を張る。「原子力発電所を1カ所につくるか、それとも各地のたくさんの風車などから小さな自然エネルギーを集めるのか。ロランは自然エネルギーを選び、地域を活性化したんです」

住民が風車所有

 北欧の小国デンマークは、日本と同様に資源に乏しい。1970年代、政府は原子力発電を導入する方針を打ち出した。しかし、市民運動で原発のリスクについての認識が広がり、反対の声が大勢に。85年、政府は原発に頼らないエネルギー政策に切り替えた。

 ロラン島でも2カ所が原発建設予定地に指定されていたが、住民は反対。代わりに彼らが着目したのは、島を吹き抜ける風だった。市民が農地を担保に銀行から多額の資金を借り、風車を建設する輪が80年代から広がっていった。

 島で暮らして12年になるジャーナリストのニールセン北村朋子さん(47)は「デンマークでは早くから風力発電の試みが始まった。経験から風力発電への投資は確実に回収できることが分かっていて、金融機関も国も住民の動きを後押しした」と説明する。スムーズな融資、電力の全量買い取り制度、風車建設費用の補助制度をてこに、島内の風車の半数は住民が個人で所有している。

復興のヒントに

 このロラン島の試みは、日本の復興のヒントになるのではないか―。昨年3月11日の東日本大震災、そして福島第1原発事故に衝撃を受けた北村さんは思いを強めた。クリステンセンさんとともに来日を重ね、今月も26日まで8日間、被災地を訪問。デンマークの企業とともに復興支援に知恵を絞る。

 クリステンセンさんも「原発がなくなると産業がなくなると心配する人が多いが、それは杞憂(きゆう)です」と力を込める。自然エネルギー産業は、自然の資源がある地域でこそ伸びる。雇用創出や人口増加にもつながる。「そのためには単に風車を建てるだけじゃ駄目。電力以外の熱や資源も含め、エネルギーを効率的に使う多彩な仕掛けが要る」

 ロラン島ではグリーン社会を目指す数多くのプロジェクトが進んでいる。

 その一つが、波力と風力を組み合わせた洋上の発電機「ポセイドン」の実証実験だ。風車の土台部分を海に浮かせて波を受け、それも電力に変えてしまおうというユニークな取り組みだ。

 島のドックに入っていたポセイドンを紹介しながら、クリステンセンさんは語った。「日本もデンマークと同じように海に囲まれている。こういった技術が生かせる場所も多いはずです」(平井敦子)

<電気料金>
 デンマークの電気料金は日本のおよそ1.5倍。そのうち半分以上は消費税(25%)を含めた税金で、再生可能エネルギーの利用促進などのために使われている。電力自由化により、電力会社は住民が自由に選択できる。選ぶ会社によっても料金が異なる。再生可能エネルギーしか買わない人もいるという。

 「もっと安く」との声はないのか、北村さんに聞くと「高い分、節電してできるだけ電気を使わないようにすればいいという考え方が強い。そういう意味から水道料金も高く設定してあるんですよ」

(2012年10月21日朝刊掲載)

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