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連載・特集

山口・祝島の棚田 光の那須圭子さん新著「写真絵本」で追う

■記者 久保田剛

 光市在住のフォトジャーナリスト那須圭子さん(52)の新著は、山口県上関町祝島に残る、巨大な石垣で造られた棚田を舞台に選んだ。タイトルは「平さんの天空の棚田」。持ち主の平(たいら)万次さん(79)が祖父らと約30年かけて積み上げた棚田と、それを守り続ける万次さんの物語を写真と文でつづった。脈々と続く人間の営みと、生きる強い意志を、積み重ねるように伝える。

 取材現場は、室津半島南端などと結ぶ定期船乗り場から細い山道を歩いて約1時間の中腹にあった。棚田には高さ約7~9メートルにも及ぶ6段の石垣が重なる。「人間、米さえあれば生きていける」と、万次さんの祖父、故亀次郎さんが大正時代に開き始めた棚田は牛と人間の力だけで石を積み上げた。万次さんの「人間にできないことはない」との言葉が風景に重なった。

 新著の表紙を飾るシーンは、山側から棚田を切り取った。水をたたえた棚田と瀬戸内海、空がつながっているようだ。城壁を思わせる石垣、他の人の田畑の石積みも担った歴史が刻まれた万次さんの手、はぜ掛けをする万次さんの屈託のない笑顔…。約40点のカラー写真には、遠景と近景を織り交ぜ、田植えや収穫といった折々の暮らしに温かいまなざしを向けている。

疑問抱え撮影

 この島の対岸で計画されている上関原発建設に反対し、島を含むこの地域を見詰めてきた那須さん。報道写真家福島菊次郎さん(91)=柳井市=から受け継ぐ形で、とりわけ祝島の人々をカメラに収めてきた。「国や電力会社という巨大な力を相手に、なぜ島の人たちは30年間も闘うことができたのか」。こんな疑問も抱えながらだ。

 その答えがこの棚田にあった。知人から存在を知り、棚田に通う日々。ある日、疑問が棚田とつながった。どっしりと構える石垣のように「海や山から生きる糧を得る揺るがぬ島民の暮らしが運動の原点ではないか」と。

一緒に作業も

 出版を決意し3年をかけ棚田に通い、時には一緒に作業をして撮りためた。「十分に表現できたとは思わないが、大好きな平さんと棚田にささげるラブレターです」。島の暮らしをテーマに続編を出す構想も抱いている。

 棚田を受け継ぐ人はいまのところ、いない。「田は私が死んだら原野に返る」。そう言う万治さんは「写真は棚田がここにあったと伝えてくれる。天国のおじいさんも喜んでいる」とほほ笑む。

 「写真絵本」という那須さんの新著は1500部を印刷。A5判、カラー。2千円。みずのわ出版Tel0820(77)2451。

なす・けいこ
 1960年、東京生まれ。早稲田大を卒業後、結婚を機に山口県に移り住んだ。2007年に刊行した写真集「中電さん、さようなら―山口県祝島 原発とたたかう島人の記録」は第12回日本自費出版文化賞・特別賞を受賞した。

(2012年11月10日朝刊掲載)

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