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連載・特集

日中関係の行方 尖閣問題から考える <下> 広島市立大准教授 飯島典子さん (中国近代史) 

文化通じ親しみ深めて

政治・経済 好転に期待も

 大学を休学し、北京に半年間、語学留学したのは25年前。中国は将来の発展が見込まれ、研究のしがいがあると考えたからだが、これほど急激に経済成長し、世界の注目を浴びるとは予想しなかった。

 一方で、日本人が中国に抱くイメージが25年でどれだけ変わったかは心もとない。学生に尋ねても、今なお「毛沢東」の次がなかなか出なかったりする。担当する中国文化論の講義では、現代中国を象徴するキーワードの紹介も交え、今の日本社会と関連づけて中国文化を捉えようと努めている。

 中国では10年ほど前から「藍色国土」という言葉がよく使われるようになった。青い海もまた国土、といった意味だ。経済発展の原動力となる海底油田、天然ガス田などの開発に向け、周辺の海への権益意識が極めて強くなっている。

 魚食文化も普及し、水産物資源にも注目している。中国が尖閣諸島の領有権を強く打ち出す背景の一つだろう。

 これまで中国の海への関心は海洋国家・日本に比べ格段に低かった。それが経済成長を経て劇的に変わっていることに日本人の認識は甘かったかもしれない。今回突き付けられたことだと思う。

 海底資源の共同開発や、乱獲で共倒れにならないような水産資源保護の協力など、建設的な対応への努力が望まれるが、交渉は非常にタフにならざるを得ない。両国民の感情的な対立が続けば、その糸口さえつかめないだろう。

 だからこそ、地道な文化交流の大切さを訴えたい。日韓の文化交流は「韓流ブーム」など大衆レベルで広がっているが、日中間ではなお心細い。それは、開拓の余地が大きいということでもある。

 相手国の文化への親しみがあれば、蔑視や反感が不必要に高まることは防げる。政治のかじ取りにも反映し、双方にとって不幸な事態を避ける力になると思う。大学で講義する上でも、大切にしている考えだ。

 中国での日本車販売の急激な落ち込みが伝えられているが、アニメやゲームの分野ではそういう話を聞かない。日本「文化」として親しまれている強みではないか。文化交流を通じて日本のイメージが回復していけば、結果的に車など一般的な製品の売り上げ回復にもつながると思う。

 日中国交回復40年の節目に、アイドルグループ「AKB48」の中国公演が中止になったり、逆に中国のピアノ奏者ユンディ・リや一部の京劇団の来日公演が中止になったりした。残念だ。東京に「新潮劇院」という在日の中国人俳優でつくる京劇団があって活動しているが、こういう時こそ応援したい。広島公演の実現を手助けできないか、考えているところだ。

いいじま・のりこ
 65年東京都生まれ。文教大、和洋女子大の非常勤講師などを経て現職。華僑(中国本土から海外に移住した中国人や子孫)の歴史を中心に研究する。

(2012年11月22日朝刊掲載)

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