×

連載・特集

中国地方 2012年回顧 文芸 

原発事故 被爆者の怒り

郷土の文学者 顕彰進む

 東日本大震災を踏まえて、原子爆弾と原発事故の関係にどう向き合い、言葉を紡ぐのか。想像力が問われた年だった。中でも被爆体験者たちの言葉には力強さがあった。

 広島の被爆体験を原点に小説や評論を手掛ける竹西寛子は、文化功労者に選ばれ、中国文化賞を受賞した。インタビュー集「震災後のことば」では、「どうして、広島・長崎の経験を、国がもっと真摯(しんし)に受け止め、国民共有の事実として認識し、教えてこなかったのだろう」と指摘。原発事故後の国の対応に疑問を注いだ。

 被爆者で医師として多くの被爆者を支えた広島市在住の詩人御庄博実は、詩人石川逸子と詩文集「哀悼と怒り―桜の国の悲しみ」を編んだ。

 震災後に広島へ拠点を移し、福島へ思いを寄せた若い作家もいた。被爆者の遺品と向き合った写真絵本「さがしています」を出した詩人アーサー・ビナードは、「原子力の平和利用」を否定。言葉による抵抗を呼び掛けた。漫画家西島大介「すべてがちょっとずつ優しい世界」は、原子力発電所誘致を題材に都市と地方の関係を寓話(ぐうわ)として描いた。

 広島市出身の漫画家こうの史代は、残された側の視点から被災地を訪ねるイラストエッセー「日の鳥」の連載を続けている。

 中国地方ゆかりの文学者に、郷土から光を当てる動きも活発だった。

 三次市布野町出身のアララギ派歌人、中村憲吉の生家を一部改修した記念文芸館が2月、同町に開館した。直筆の掛け軸や手紙を展示し、歌人としての功績を伝える。

 戦時中に林芙美子が川端康成に宛てた書簡の一部が発見され、尾道市の文学記念室で展示された。来年の生誕110周年を前に旧居改修など顕彰する動きが相次いだ。

 島根県津和野出身の森鴎外は生誕150周年。同町は森鴎外記念館の展示をリニューアルし、記念式典を開いた。児童雑誌「赤い鳥」を創刊した広島市出身の鈴木三重吉は生誕130周年。市民団体が集いを開いた。

 終戦直後に「近代文学」を創刊し、文芸や映像の評論、小説を幅広く手掛けた三原市本郷町出身の佐々木基一の全10巻の全集刊行が始まった。

 地元出身作家の活躍も目立った。下関市在住の田中慎弥「共喰い」が受賞した第146回芥川賞で、広島市在住の吉井磨弥が「七月のばか」で初めて候補入り。閉塞(へいそく)感に覆われた地方都市で生きる人間に肉薄した。原作の映画化が相次ぐ尾道市出身の湊かなえは、「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞した。

 被爆者の那須正幹は、女性3代の視点で広島の戦後復興を描いたヒロシマ3部作で、日本児童文学者協会賞を受賞。福山市のふくやま文学館は、那須の企画展を開いた。

 読書の喜びを分かち合う取り組みも広がった。広島市の市民イベント「ブックスひろしま」は今年4回目。第1回から続ける「一箱古本市」は呉市や廿日市市でも定着した。広島県立図書館や広島大図書館は書評合戦「ビブリオバトル」を初めて開き、盛況だった。

 同人誌は高齢化が進み、短歌誌「火幻」「青嵐」、詩誌「詩潮」が終刊した。=敬称略(渡辺敬子)

(2012年12月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ