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連載・特集

ヒロシマの記録2012 原発再稼働 国論を二分

 核兵器廃絶に向けた国際世論に、新たなうねりが起きた。国連総会第1委員会(軍縮)で10月、核兵器の非人道性を訴え、国際法上非合法にする努力の強化を各国に促す声明を30カ国以上が合同で発表した。「非人道性」「非合法化」を突き詰める取り組みは今後、核廃絶を目指す国際的基調になる可能性がある。

 声明をめぐり、被爆地は希望とともに失望を味わった。声明に加わるよう打診された日本政府は拒否。米国の「核の傘」の下にある安全保障政策と整合性が取れないためだという。核兵器廃絶を唱えながら、核抑止力に頼る。被爆国の矛盾した姿は変わらない。

 被爆67年。老いた被爆者たちが憤ったのはこれだけではない。

 米国が新型核実験や臨界前核実験を繰り返していたことが判明。原爆慰霊碑(広島市中区)は2度も塗料で汚された。原爆投下直後に降った「黒い雨」被害の援護対象地域の見直しも、拡大を求めた広島市や住民の願いは国に届かなかった。

 原発再稼働で国論は二分され、核の平和利用の是非に揺れた一年でもあった。ことしの平和宣言で広島市の松井一実市長は、市民の暮らしと安全を守るためのエネルギー政策の早期確立を政府に求めた。核と人類は共存できるか―。その問いに答えを見いだせない中、関西電力大飯原発(福井県おおい町)は再稼働した。

 12月の衆院選を前に、日本維新の会の幹部から非核三原則の見直しを容認する発言も相次いだ。「領土」をめぐる中国、韓国との対立の先鋭化がこうした発言を引き出したならば、危ういと言わざるを得ない。

 その衆院選では自民党が圧勝し、自衛隊を「国防軍」化する憲法改正や集団的自衛権の行使容認を志向する安倍晋三首相が再登板した。北東アジアの平和と安定の構築がますます重視される今、ヒロシマの訴えは重みを増す。(城戸収)

(2012年12月31日朝刊掲載)

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