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地域と原発 福島事故から2年 <上> 上関

賛否綱引き 緊張再び

補償金の受領 波紋

 中国電力による上関原発計画への反対運動が続く、山口県上関町祝島。2月28日夜、集落の公民館から拍手の音が漏れた。集まったのは県漁協祝島支店の組合員。建設に伴う漁業補償金、約10億8千万円の受け取りが賛成多数で決まった。

 採決には委任状11人分を含めた52人が参加。うち32人は「補償金問題は受け取り拒否で決着済み」と議題にすることに異議を唱えていた。しかし、受領の賛否を問う投票結果は31対21。反対派のはずの11人が受領に同意したことになる。

 「その夜は眠れなかった。全国の支援者に心配をかける」。反対派の組合員橋本久男さん(61)は表情をこわばらせた。同原発の計画浮上から約30年。「私たちは海を売っちょらん」―。漁師の補償金拒否は反対運動のよりどころの一つだった。転換の背景には、魚価の低迷などによる祝島支店の赤字がある。

「対応及ばず」

 集会を主導した県漁協本店の幹部は、支店の赤字穴埋め額が本年度は組合員1人13万円程度に膨らむと示唆。補償金の協議を迫った。支店の恵比須利宏運営委員長(68)は「漁業者の多くは年金に頼る70、80歳代。『原発はもうできない。生活のため受け取ろう』と考えた人もいたのでは」と推し量る。

 東京電力福島第1原発の事故後、中電は上関原発の準備工事を中断。この2年間、大きな動きはない。民主党政権は建設を認めない方針を打ち出した。「計画中止に近づいていると思っていた。対応が及ばなかった」。反対派住民は苦渋をにじませる。

 同町の推進派は「補償金を受けて反対運動はできない。影響は小さくない」とみる。一方、反対派は「次の手を考える」と危機感を強める。小さな町に、再び緊張が高まる。

 島での出来事の4日後の今月4日。山口県の山本繁太郎知事は、建設予定地の公有水面埋め立て免許延長について、可否の判断を先送りした。民主党政権が掲げた「原発ゼロ」。方針を撤回した自民党政権の動向を見極める意向とみられる。

デモの声響く

 「流れは変わると確信していた。エネルギーの安定供給に原発は必要だ」。上関町議でつくる原電推進議員会の右田勝会長(71)は、原子力政策の「揺り戻し」を歓迎する。

 福島事故から丸2年を控えた10日。町に反対派のデモの声が響いた。祝島婦人会長中村隆子さん(82)は拳を握りしめた。「国は原発をもう建てないと決めたはず。福島の事故を忘れたような方向に、なぜまた進むのか」

 福島第1原発事故から丸2年。国の原子力政策はなお不透明で、中国地方の原発計画は揺れる。地元の現状や中電の対応を追う。

国の原子力政策
 民主党政権は2012年9月、30年代に原発稼働ゼロを目指す新戦略を決定。上関原発は建設を認めないとした。政権交代後、安倍晋三首相はゼロ方針の見直しを表明。10年以内に電源構成のベストミックス(最適な組み合わせ)を確立するとしている。上関原発の個別方針は示されていない。

(2013年3月13日朝刊掲載)

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