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連載・特集

地域と原発 福島事故から2年 <中> 島根

再稼働 見えぬ合意点

新基準へ安全策次々

 日本海を望む海抜50メートルの高台。4台のショベルカーが山肌を削り、地面をならす。中国電力が島根原子力発電所(松江市鹿島町)で建設している免震重要棟の工事現場だ。

 重要棟は、原発の新たな安全規制を担う原子力規制委員会が、災害時の指揮命令拠点として重視する。重要棟を含め、中電は福島第1原発事故を受けた津波対策に、少なくとも500億円を投じてきた。

3号周辺完成

 海抜15メートル、延長約1・5キロの防波壁は、3号機を囲むエリアは完成。現在は1、2号機周辺で工事が進む。1、2号機を見下ろす海抜45メートルの高台には非常電源用のガスタービン発電機が置かれた。敷地内の光景は様変わりした。

 だが1月、原子力規制委が示した新安全基準の骨子案は、より厳しい内容だった。「想像以上だ…」。骨子案を知った中電幹部は、ハードルの高さにこう漏らした。

 骨子案では、放射性物質を除き蒸気を放出するフィルター付きベント設置や、原子炉第2制御室を備えた特定安全施設の建設が盛り込まれた。影響が見込まれるのは、島根など福島第1と同じ沸騰水型原発について、規制委が特に厳しい姿勢を見せている点だ。

 規制委は沸騰水型について、ベント設備がなければ再稼働を認めない方針でいる。福島で起きた水素爆発を防ぐ、重要な機能を担うからだ。中電は島根2号機と、ほぼ完成した3号機のベント設備は2015年度に整備する方針。2号機の稼働の条件が整うのは、早くても2年以上先になる。

 高まる安全のハードルに、地元は理解を示す。「(7月に示される)規制委の安全基準が一番大事」「判断は国の責任」。島根県の溝口善兵衛知事は今月1日の県議会本会議でこう繰り返した。「7月までは審議しようがない」。原発の安全対策を審議する県議会総務委員会の中島謙二委員長も話す。

政権で温度差

 ただ、県議会には「運転開始から39年の1号機以外は、稼働への道筋が見えてきた」との見方もある。「安全が確認できれば稼働する」と安倍晋三首相は明言し、民主党政権との違いを打ち出しているからだ。

 中電は、安全の確保と地元理解を前提に早期の再稼働を目指す。「少しでも早く知りたい。積極的に対応したい」。小畑博文副社長は昨年11月、規制委の新安全基準についてこう言及した。

 市民団体「平和フォーラムしまね」(松江市)の杉谷肇代表(71)は「稼働の是非の議論は、対策が一通り完了してからにするべきだ」と訴える。「経済界の主張になびき、対策が中途半端なまま動かしては福島の反省が生かされない」。稼働をめぐる合意点は、見えていない。

<島根原発の安全対策の対応状況>

対策                       完了時期     事業費
フィルター付きベント設備の設置     2015年度     未定
免震重要棟の設置               14年度    約75億円
防波壁の設置                 ※13年内    非公表
非常用ガスタービン発電機の設置    11年12月    非公表
第2制御室を備える特定安全施設           検討中

※3号機周辺は完成、1、2号機周辺は建設中

島根原発
 1号機(出力46万キロワット)は2010年3月、2号機(同82万キロワット)は12年1月にそれぞれ定期検査に入り、現在も停止中。両基とも停止した期間は約1年1カ月と最長を更新し続ける。建設中の3号機(同137万3千キロワット)はほぼ完成しており、12年9月には民主党政権が建設続行を容認した。

(2013年3月14日朝刊掲載)

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