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『表層深層』 共同声明 日本賛同せず ヒロシマ 落胆と憤り 

岸田外相「考えは一致」

 被爆国日本の「非核外交」の虚実があらためて浮き彫りになった。スイス・ジュネーブで開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会に24日出された「核兵器の人道的影響に関する共同声明」に賛同しなかった日本。核兵器廃絶の新たなうねりに水を差し、一日も早い廃絶を願う被爆者の心を踏みにじった。

 声明発表翌日の25日。ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部の天野万利大使は準備委で演説し、「わが国の安全保障環境を考え、賛同を見送った」と述べた。

批判を覚悟

 日本政府が国内外の批判を覚悟の上で、なお固執したのは米国が提供する「核の傘」。それには声明にあった、核兵器使用を縛る「いかなる状況下でも核兵器が再び使われないことが人類生存に寄与する」とのくだりが不都合だった。「いかなる状況下でも」の文言の削除を日本は求めた。

 「核保有国のロシア、中国、核実験を繰り返す北朝鮮に囲まれたわが国の状況を踏まえると、核の傘に入らざるを得ない」。外務省軍備管理軍縮課の谷内一智首席事務官は、そう強調する。

 これに対し、現地で日本政府への抗議デモを主導した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲共同代表は「政府は核兵器廃絶より、古い安全保障の論理を優先させた」と批判した。

 声明発表当日。東京都内で、被爆地を選挙区に持つ岸田文雄外相(広島1区)は「相手がのむかどうか。考えは一致しているのだが…」と気をもんだ。天野大使たちに向け、声明の修正交渉を指示していた。

「自己矛盾」

 起草した南アフリカやスイスは唯一の被爆国日本を取り込みたかったが、折り合わなかった。「北朝鮮問題を抱え、難しい時期なのは分かる。でも何より核の恐ろしさを知っている国なのに」。南アフリカの政府関係者はいらだちを隠さなかった。

 翌25日、岸田氏は「関係国が多く、修正がならなかったのは残念だが、(今後、同じテーマの声明が出されたら)賛同できるよう前向きに努力していきたい」と無念さをにじませた。

 被爆地広島には落胆と憤りが広がった。広島県被団協の坪井直理事長(87)は「けしからん。日米間のしがらみにとらわれた考えだ」と非難。もう一つの県被団協(金子一士理事長)の吉岡幸雄副理事長(83)も「核兵器廃絶の動きに水を差した。国際社会で非難は免れない」と断じた。

 「核の傘の縮小を含めた核軍縮に取り組むという姿勢を示すためにも日本は声明に賛同すべきだった」。広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長(核軍縮)は指摘した。「米国に遠慮しているのなら間違いだ。核を非人道的と言えない日本は自己矛盾を抱えている」

核兵器廃絶 共同声明 日本賛同せず 「被爆地の心共有を」 広島市長、集会で訴え

 広島市の松井一実市長は25日、スイス・ジュネーブで「北東アジアの非核化」をテーマにした非政府組織(NGO)主催の研究集会で演説した。現地での4日間の日程を終え、同日の飛行機で帰国の途に就いた。 (ジュネーブ発 田中美千子)

 松井市長は22~25日のジュネーブ滞在中、国連幹部や10カ国以上の大使たちと懇談を重ねた。「被爆地の思いを多くの人に伝えられた」としながら、核兵器の不使用を求める共同声明に日本が加わらなかったことに「核兵器は絶対悪と訴え続けてきたヒロシマとすれば到底納得できない」と、あらためて不快感を示した。

 松井市長は演説で北朝鮮の核問題に言及し、「緊迫した状況がある今こそ、被爆地の市長として訴えたい。核兵器は非人道兵器の極みだ」と強調。「全ての人が、被爆者の心からの願いを共有してほしい」と訴えた。

 24日夜(日本時間25日未明)には、会長を務める平和市長会議を代表し、NPT再検討会議に向けた第2回準備委員会のコルネル・フェルッツァ議長に、核兵器禁止条約の早期実現を求める約26万人分の署名を提出した。フェルッツァ議長は「思いを受け止め、議長の仕事に反映させたい」と述べた。

(2013年4月26日朝刊掲載)

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