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連載・特集

『生きて』 政治学者 北西允さん <15> 新たな潮流

個人の意思と力に期待

 今年の年賀状に「フェイスブックなどにもっと習熟して、反戦・反核の闘いに引き続き参加したい」とつづり、「改憲断固阻止」と呼び掛けた

 今どきの政治学者の論文はあまり読んでいません。未来はこうあるべきだという展望を唱える人が少ない。現実に埋没している。批判する力が衰えていると思いますね。

 僕の専門である英国政党論で言えば、小選挙区制は19世紀後半、保守・自由党が、新興の労働者政党が議会に進出するのを抑制するために導入した。選挙は民意の反映と統合という相反する二つの機能がありますが、小選挙区制は民意を最も反映しない。だから欧州大陸では伝統的に比例代表制が一般的であり、英国は特異なんです。ただ、英国の政党は市民生活の中に溶けこみ、労働党もしっかりした基盤を持っている。昨年12月の総選挙のような、小選挙区で得票率43%の自民党が議席は8割を占めるという弊害は起きにくい。

 日本の労組は企業別だから御用組合的となり弱すぎる。大統領制、議院内閣制の違いはあっても欧州では財界と官僚、労組の3者が実質的に政治を動かしている。総じて政策は右寄りになったが、労組をバックにした政党がまだ政治の一翼を担っている。ところが日本は労組なき政治に陥っています。

 日米軍事同盟の強化に続き、憲法9条改正の動きが起きているのに、「アベノミクス」とメディアをはじめもてはやしている場合ではない。これまで自衛隊は、他国で殺したり殺されたりすることはなかった。私たちは原爆投下に至る戦争の総括をきちんとしていないけれど、9条を体現した歩みは誇りにしていい。

 一方、福島第1原発の事故から「原発反対」の声が高まっていますよね。ネットを使って国会を取り巻くなど個人の意思で集まり、抗議している。これまでの動員形態と全く違う運動であり、新たな潮流だと思います。米国の「核の傘」にいることをよしとする「核安保」の危うさも見つめ、解消を図る反核運動に広げていくべきです。双方向でつながる個人の意思と行動に期待するし、未来の芽はそこにあると思います。=おわり(この連載は編集委員・西本雅実が担当しました)

(2013年4月27日朝刊掲載)

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