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憲法を考える インタビュー <上> 「1票の格差」訴訟の原告団長 金尾哲也弁護士

議員の怠慢 「平等」侵す

改憲の前に定数是正を

 憲法改正が現実味を帯びている。安倍晋三首相は改憲を国会が発議する要件を緩和する96条改正を訴え、夏の参院選での争点化に意欲を示す。一方、先の衆院選をめぐり相次いだ「無効」「違憲」判決は、憲法をないがしろにしてきた政治の在りように警鐘を鳴らした。3日に施行66年を迎える憲法を今、どう考えるのか。3人の意見をインタビューで紹介する。

 ―昨年12月の衆院選の1票の格差をめぐる訴訟で、広島高裁は違憲と判断し、選挙無効を言い渡しました。
 今、改憲論議が進んでいるが、その前に国会議員はゆがんだ選挙の下に自身が存在していることを自覚する必要がある。

 高裁は「もはや憲法上許されるべきではない事態」と指弾。憲法前文にも「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し…」とある。急ぐべきは改憲ではない。1票の格差解消に向けた定数是正だ。政治家は、順序が違うことを知っていながら、知らないふりをしているようにみえる。

 ―1票の格差訴訟を通じ、憲法の平等の精神があらためてクローズアップされました。
 私自身、憲法14条の「法の下の平等」に最大の魅力を感じている。大学の授業で憲法を読み込み、ほれた。弁護士になってからも「人間は全て平等」という精神を活動の支えにしている。1票の重みの差異はその平等を侵し、もはや看過できない状況だ。

 ―最高裁が初めて違憲判決を出したのは1976年。この40年近く、格差は是正されませんでした。
 明らかに憲法の軽視だ。「司法を立法がなめている」と言わざるを得ない。議員の怠慢で、立憲主義の否定でもある。帝国憲法下の明治時代は、人口に基づき定数是正が頻繁にあり、格差が2倍を超えることはなかった。

 現憲法の下では自民党の安定多数が長期にわたり、1票の価値や重みについて議員はあまりに鈍感でありすぎた。選挙に勝つことを優先し、定数削減の論議を避けた。今国会で成立予定の、衆院の小選挙区定数「0増5減」に伴い区割りを改定する公選法改正案も、お茶を濁した格好で、抜本的な改革になっていない。

 ―安倍政権の誕生後、自民党や日本維新の会を中心に改憲論議が加速しています。今のムードをどうみますか。
 政治は静から動へと一気に転換した。経済政策「アベノミクス」効果への期待から、国民に少なからず高揚感もある。この動の状態の中に、改憲論議が巻き込まれている。安倍政権は改憲ブームをつくろうとしている。これは小泉純一郎元首相の郵政改革と同じで非常に危うい。

 ―世論調査では改憲への拒否感が薄れてきているようです。どう受け止めますか。
 以前の世論調査では国民はもっと改憲に慎重だった。政治主導の改憲ムードに流されているのではないか。憲法改正は通常の法律改正とは重みが違う。ここを国民が自覚するまで議論を急ぐべきではない。(胡子洋)

かなお・てつや
 52年、広島市安佐南区生まれ。早稲田大卒。82年に弁護士登録。84年から1票の格差訴訟に関わる。昨年12月の衆院選広島1、2区の無効を求めた訴訟の原告団長を務める。60歳。

衆院選「1票の格差」
 議員1人当たりの有権者数が選挙区で異なるため1票の価値に不均衡が生じる。法の下の平等を定めた憲法14条に反するかどうかが長年争われている。最高裁が1976年に初めて違憲と判断したのは、4・99倍だった72年選挙。広島高裁はことし3月、最大格差2・43倍だった昨年12月の選挙を違憲とし、広島1、2区の無効を言い渡した。無効判断は戦後初。昨年の衆院選をめぐる計16件の訴訟では2件が「違憲・無効」に踏み込み、「違憲・有効」が12件、「違憲状態」2件。いずれも上告され、最高裁で確定するまで効力は生じず、直ちに失職することはない。

(2013年5月1日朝刊掲載)

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