×

連載・特集

憲法を考える インタビュー <下> ひろしまジン大学学長 平尾順平さん

「不戦の歴史」役割語る

改憲手続き先行は疑問

 ―普段の生活で憲法を意識しますか。
 地域をキャンパスに誰でも参加できる生涯学習の場として「ひろしまジン大学」を開いているが、憲法を正面から取り上げた講座はまだない。暮らしに身近なものというより、基本的人権の尊重や三権分立など国の仕組みを規定する、体に例えれば背骨の存在だ。

 小中高校の9年間、器械体操をやっていた。その影響で時々、背骨が痛くなることがあり、あらためて大切さに気付く。憲法も同じではないか。

 ―憲法は重要な役割を果たしてきたということですね。
 戦後68年、日本がどこの国とも戦争をせずにこられたという大きな事実がある。文言は古くなったのかもしれないが、大切な原理原則を定めている。

 ―平尾さんは被爆2世と聞いています。
 母が胎内被爆者。被爆2世であることは、広島に戻って活動する大きな要因になった。被爆地ヒロシマの知名度は海外ですごく高い。復興の過程や平和への貢献を、世界に伝えようと思った。

 昨年9月、アフガニスタンの政府職員と話す機会があった。「平和のために平和的憲法を制定しないといけない」と訴えていたのがすごく印象に残っている。日本には、平和のベースとなる憲法があることを再認識した。

 ―安倍晋三首相が、夏の参院選で憲法改正を争点とすることに意欲を示しています。
 憲法を変えるというムードだけが先行している。北朝鮮や中国との緊張関係が高まっている中で、その流れに乗じた動きに見える。

 ―憲法改正を国会が発議する要件を緩和しようと、96条改正の先行実施を求める動きが出ています。
 96条は手続きを定めたもの。こんな国をつくるために改憲が必要という論法なら理解できるが、手続き部分が先行するのはおかしい。とりあえず改憲しやすくして、なし崩し的にいろんなことを変えてしまおうとしているのでは、との疑念が残る。

 ―憲法改正には反対ですか。
 改正の必要性を感じていないし、安易に変えるのは危ういと思う。ただ、参院選に向けて憲法をめぐる議論が盛り上がるのは歓迎だ。若い世代を含め、有権者一人一人が憲法をあらためて意識し、学ぶ好機になる。国民的な議論が盛り上がって初めて、改憲の是非を判断する環境が整うのではないか。

 ―そのために政治家に何を求めますか。
 福島第1原発事故では放射性物質などをめぐる政府の情報発信に不信感が募った。信頼が揺らいでいる中で漠然と改憲を訴えても、その裏に何があるのかと不安になる。具体的にどこを変えるのか。どんなメリットがあり、マイナスは何なのか。分かりやすく提示する責任がある。(村田拓也)

ひらお・じゅんぺい
 76年、広島市安佐北区生まれ。広島市立大国際学部卒。日本国際協力センター(東京)、広島平和文化センター(中区)勤務を経て、10年5月にNPO法人「ひろしまジン大学」を設立した。37歳。

憲法96条
 憲法改正の手続きに関する規定。衆参両院の総員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数が賛成した場合に承認されると定める。憲法改正に高いハードルを設けた条文で、日本国憲法は「硬性憲法」と言われる。改憲派は国会の発議要件が厳しすぎるとして、両院の過半数で発議できるように緩和する96条改正の先行実施を主張。安倍晋三首相は、夏の参院選の自民党公約に96条改正を掲げる方針を表明している。

(2013年5月3日朝刊に掲載)

年別アーカイブ