×

連載・特集

『生きて』 洋画家 入野忠芳さん <12> 木を描く

根っこの闘いがテーマ

 1985年にヒロシマアートグラント、94年にアジアひろしま芸術大賞展大賞を受賞。着実な歩みを経て今がある

 年齢を重ねてこそ描ける画題もある、と思う。ここ10年余り、樹木を多く描いています。若い頃から、屋久島(鹿児島県)の屋久杉などに強烈な印象を受けてきたが、ようやく画題として向き合えるようになった。最初は筒賀(広島県安芸太田町)の大イチョウ。墨と紙を積極的に使うようになった。

 根っこを想像して描くのが大事。山歩きをする中で、台風でひっくり返った木も見てきたが、幹の太さが30センチしかなくても、根は何メートルも広がっている。見えない地中で闘っている、そこに生命のドラマがある。

 樹木を油絵に描いたのが最新の「精霊」シリーズ

 新聞紙で絵の具を拭き取りながら描く。墨のような表現を油絵の具でできたらと、5年ほど前から力を入れています。

 被爆樹を描いたシリーズもあります。成長や見栄えはよくないが、自分とも重なる存在だからね。

 木を描いて思うのは、「欠落」も含めて命、ということです。被爆樹はもちろん、大樹、巨木で無傷なものはない。むしろ、ずたずたな幹が多い。それが木のてっぺんでは、上へ芽を伸ばしている。僕も左手がないが、それを含めて僕の命だ。

 昨秋、胆管がんが見つかり、余命を意識する日々です。広島拘置所(広島市中区)の壁画修復はやり残すわけにはいかないと、執心しました。

 修復を終えた今、あらためて樹木のシリーズに向き合う

 やれるところまでやりたい。少しくらいの無理が自分を元気づける。

 木の根を想像して描く、と言いました。外見はこぎれいになった広島の地面の下で、根っこの闘いはずっと続いている。木だけの話じゃなく、被爆者を含めた人々の思い、命の根っこ。その闘いを絵に表現していきたいんです。=おわり(この連載は文化部・道面雅量が担当しました)

(2013年7月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ