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連載・特集

都市が紡ぐ 平和市長会議総会を前に <下> 2020ビジョン

「核禁止条約」焦点に

国内の賛同拡大課題

 「核兵器禁止条約の早期実現に焦点を絞りたい」。7月30日午後10時。広島市中区の広島平和文化センターにある平和市長会議(会長・松井一実市長)の事務局。センターの小溝泰義理事長はパソコンに向かって、英語で語り掛けた。

 インターネット電話の相手は、副会長都市である英マンチェスター市の担当者。3日から始まる平和市長会議総会で論点となる今後4年間の行動計画の方向性を伝えた。

 「廃絶への道筋はさまざまある。でも、われわれはまっしぐらに核兵器禁止条約の締結を目指す」と小溝理事長。「それが市民の願いだから」と断言する。

 平和市長会議は2003年、被爆75年となる20年までに核兵器廃絶を目指す指針「核兵器廃絶のための緊急行動(2020ビジョン)」を発表した。核兵器の製造、保有、使用の全面禁止を目指す条約の実現を柱に据えて、国内外でキャンペーンを展開してきた。

 「完璧なビジョンだ」。国連の潘基文(バンキムン)事務総長は10年8月、平和記念式典出席のため訪れた広島市でたたえた。

 ことし6月に米国ラスベガスであった全米市長会議もビジョンに賛同する決議をした。米国の平和活動家で広島平和文化センターのジャッキー・カバソ専門員は「具体的な目標年限を定めたことで核廃絶への強い思いが際立った。政治的表現とは違う」と評価する。

見えぬ交渉入り

 平和市長会議の加盟都市は、米国を含む核保有五大国と、事実上の核保有国のインド、パキスタン、イスラエルの3カ国に計577都市ある。核抑止力に守られながらも、「ノー」を突き付ける。こうした都市の意思表示も各国政府を動かすまでには至っていない。

 それは唯一の戦争被爆国である日本でも同じだ。政府は米国の提供する「核の傘」に頼る安全保障政策を堅持。傘の下で核兵器廃絶を訴える「矛盾」を抱える。廃絶の道筋も「ステップ・バイ・ステップ」と段階的削減論を支持し、米国と足並みをそろえる。核兵器禁止条約は2020ビジョンで目標に掲げる15年締結はおろか、交渉入りも見えない。

署名77万筆余り

 平和市長会議は10年12月、核兵器禁止条約の交渉開始を各国の指導者に求める署名活動を国内外で始めた。現在、集まった署名数は77万筆余りだ。

 ただ平和市長会議に協力し、署名簿を届けた国内の自治体は137市区町村で、国内加盟都市の1割にすぎない。市の荒瀬尚美・2020ビジョン推進担当課長は「国内でさえ、条約の意図が自治体や市民に伝わっていない」と認める。

 中国新聞社が7月、役員都市19市に20年までの廃絶に向けた手応えについてアンケートしたところ、回答した10都市のうち長崎だけが「とてもある」と回答。「ある」は広島、ボルゴグラード(ロシア)など6市だった。

 ヒロシマ、ナガサキを繰り返してはならない―。「あの日」から続く非人道的な事実を踏まえた核兵器廃絶の訴えが世界で強まる中、開かれる総会。「核兵器のない世界」へ都市が果たすべき役割を再確認し、実効性ある取り組みを生む議論が求められる。

 この連載は岡田浩平、田中美千子、加納亜弥が担当しました。

(2013年8月3日朝刊掲載)

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